近年、DX推進の流れの中で、「データ活用」や「データドリブン戦略」という言葉を耳にする機会が増えています。これらはDX推進において欠かせない考え方であり、マーケティング分野でもその重要性が高まっています。
本記事では、データドリブンの意味と重要性、進め方や成功のポイントを、マーケティングにフォーカスをして、事例を交えながら紹介します。
データドリブンマーケティングとは
データドリブンマーケティングは、データに基づきマーケティングにおける戦略の立案や意思決定、実行、振り返りなどを行う業務プロセスのことです。
データドリブン(Data Driven)とは、直訳すると「データ駆動」という意味を持ちます。従来、日本の製造業ではKKD(勘、経験、度胸)に頼るケースも多く見られましたが、データドリブンマーケティングでは、蓄積したデータを分析し、その結果をもとに課題解決の施策を立案したり、ビジネスの意思決定を行ったりします。
本記事では、データドリブンマーケティングについて紹介しますが、「データドリブン経営」「データドリブン戦略」「データドリブン開発」といった表現で、経営や開発においてもデータドリブンなプロセス改善が注目されています。
データドリブンマーケティングが注目されている背景
今までも、マーケティングにおいてデータを利用することは一般的でした。しかし、多くの企業ではデータの集計頻度が限られ、月次・四半期・年次といった単位で判断にとどまっていました。また顧客単位ではなく大きな顧客グループ単位でデータを分析・活用するケースが主流で、より細かい視点でのデータ活用が進んでいませんでした。
現在では技術の発展にともない、オンラインの情報だけではなく、実店舗での購入情報や位置情報などオフラインの顧客データも取得できるようになっています。さらに、顧客の購買行動も変化しており、購入や契約に至るまでにウェブルーミング(オンラインで情報を調べて実店舗で購入する)やショールーミング(実店舗で商品を確認し、オンラインで購入する)といった行動を取るケースが増えています。
さらに、情報化社会の発展により、やり取りされる情報量の増加や消費社会における価値観の多様化、顧客行動の複雑化などを受け、データそのものの価値は年々高まっており、あらためてデータドリブンマーケティングの重要性が見直されています。
しかし、これらの多種多様なデータをどのように管理すれば良いか分からないという声をよく耳にします。企業の正しいデータ管理について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
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データドリブンマーケティングとDXの関係
データドリブンとセットでよく耳にする言葉に「DX」があります。DXは「守りのDX」と「攻めのDX」の2種類の領域に分けられます。 データドリブンとともによく耳にする「DX(デジタルトランスフォーメーション)」は、データドリブンマーケティングと密接に関係する概念です。
DXとは、デジタル技術を活用して業務プロセスや顧客体験、ビジネスモデルを変革し、新たな価値を創出する取り組みを指します。この変革により、企業が収集できるデータの範囲や深さが拡大し、データドリブンマーケティングの実践を支える基盤が強化されます。
例えば、飲食店ではDXの一環として、モバイルオーダーやオンライン予約システムを導入することで、顧客の注文履歴や来店頻度などのデータを自動的に収集できます。これらのデータを活用することで、売れ筋メニューの特定期間限定キャンペーンの実施、混雑予測による効率的なスタッフ配置、常連客向けの特典企画などの、マーケティング施策に展開できます。
このように、DXで得られたデータを活用するデータドリブンマーケティングにより、感覚や経験に頼らず、データに基づいた意思決定が可能になります。DXとデータドリブンマーケティングを連携させることで、競争力の高いマーケティング戦略を構築し、企業の競争優位性を維持・向上させることが求められています。
関連:「攻めのDX」とは?守りのDXとの違い、攻めのDX推進に必要なこと
データドリブンマーケティングを行う目的・メリット
経験や勘に根拠を与え再現性が生まれる
データドリブンマーケティングを行うことで、客観的にデータでの比較や分析ができるようになり、施策に再現性が向上します。経験や勘によるマーケティングでは「なぜ効果があったのか」「次も成功するのか」を判断することは困難です。さらに、経験や勘は個人の能力に依存するため、以前効果があった施策を長期間変更せずに続けてしまうこともあるでしょう。
データドリブンマーケティングによって、経験や勘がデータの観点から裏づけられれば、施策の効果や課題を明確にできます。それを評価・改善しながらブラッシュアップしていくことで、効果が低い施策は中止し、効果が高い施策を継続することでより適切なマーケティング施策を実施できるようになります。
顧客体験の向上に繋がる
データドリブンマーケティングを行うことにより、データに基づいて顧客のニーズを適切に把握できるようになります。顧客ニーズの把握ができると、ターゲットに合わせた最適なコミュニケーションを実施し、関係性を深めていくことができます。
消費者のニーズが多様化している現在では、同じサービスを検討している顧客であっても、期待する内容が異なります。そのため一人ひとりに最適化された商品やサービスを提供することが、他社との差別化に繋がります。
また、消費者に関するさまざまなデータを収集・分析し、それをマーケティングや商品開発に活かすことで、よりパーソナライズされたコミュニケーションが可能になります。結果として顧客体験(CX)を向上させ、顧客との良好な関係性を築き上げることができます。
関連:顧客体験(CX)向上の成功事例4選!効果的な施策と必要なステップとは?
業務改善・効率化が行える
一部の担当者に依存している業務を、ほかの従業員に引き継ぐうえでもデータドリブンマーケティングは重要な役割を果たします。
業務の属人化は、担当者がいないと業務の詳細がわからなくなったり、個人の知識や経験が組織に蓄積されず、後進が育ちにくくなっていきます。データドリブンマーケティングにはこのような業務上のリスクを分散し、社内で情報を共有できるメリットもあります。
担当者が変更したとしてもデータをもとに同様のロジックで意思決定できるため 、キャリアや能力に関係なく、一貫性のあるサービスを提供できるようになります。
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データドリブンマーケティングを進めるうえでよくある失敗例
データドリブンマーケティングには多くのメリットがありますが、うまく実現できていない企業も少なくありません。データドリブンマーケティングを進める際に陥りがちな失敗例を紹介します。
目標・目的があいまいになっている
データドリブンマーケティングを始める際、目標や目的が具体化されていないケースが少なくありません。「売上向上」や「顧客満足度の改善」といった抽象的な目標では、成功基準が不明確になり、プロジェクトが迷走する原因となります。
特に、ビジネス全体の戦略と部署ごとの施策が噛み合っていないと、それぞれが異なるゴールを追い、全体最適を欠く原因になります。
データのサイロ化が起こっている
多くの企業では、部門ごとにデータが分断され、統合されていないケースが見られます。これは「データのサイロ化」と呼ばれる状態です。
例えば、小売業において、店舗とECが異なる部門で運営されている場合、それぞれが自部門のデータだけをもとに意思決定を行うと、誤った判断につながる可能性があります。かつては店舗とECの顧客層が明確に分かれていることもありましたが、現在では両方を併用する顧客が増えています。そのため、店舗とECのデータを統合的に分析しないと、集客戦略やCRM施策の精度が低下し、適切なマーケティング施策を打ち出せなくなる恐れがあります。
データドリブンマーケティングを推進するには、断片的なデータに依存せず、関連する領域のデータを横断的に活用することが不可欠です。しかし、データのサイロ化の解消をせずにデータドリブンの推進をしようとすると、このような分析が難しくなり、取り組み自体が失敗するリスクが高まります。
データの品質が低い
データドリブンマーケティングの基盤であるデータそのものの品質が低いと、失敗の大きな要因となります。不正確なデータや重複、欠損があると、分析結果が歪み、誤った意思決定に繋がるリスクが高まります。
分析結果を行動に移せない
データを分析しても、それを具体的な施策につなげられないケースは少なくありません。具体的な仮説が不十分だったり、施策に落とし込むプロセスが確立されていなかったりすると、データが活用されずに終わってしまいます。また、分析チームと実行チームの連携不足や、素早く施策を試せる環境が整備されていない場合も、分析結果を行動に繋げられない原因となります。
組織文化が根付かない
データドリブンな意思決定を組織全体で推進するには、データを活用する文化が不可欠です。しかし、トップダウンでデータ活用方針を掲げるだけで、現場がその重要性を理解していないと、データ活用は形式的なものになってしまいます。
また、意思決定者が直感や過去の経験に頼る傾向が強い組織では、データを活用した戦略が軽視され、組織の変革が進みにくくなります。
データドリブンマーケティングの進め方
データドリブンマーケティングは、単にデータを収集すれば実現されるものではありません。データドリブンマーケティング実現のためには、以下のようなステップで進めることが必要です。
- 目的の設定
- データの収集
- データの加工
- データの分析・可視化
- 施策や行動計画の策定・実施
- 効果測定
1.目的の設定
データを活用する目的を明確にし、マーケティングの方向性を決定します。例えば、「売上を20%増加させる」「リピート購入率を25%向上させる」「新規顧客の獲得コストを15%削減する」など、具体的かつ測定可能な目標を設定するようにします。
2.データの収集
目標達成に必要なデータを収集します。例えば、webサイトやモバイルアプリのトラッキングデータ、会員データ、ECサイトの購買データ、店舗の購買データ、アンケート回答など、オンライン・オフラインの両面から適切な情報を集めます。
特にアンケートは、顧客の満足度や期待を直接把握できる有効な手段です。アンケートの作成方法から結果分析、施策への活用方法について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
無料資料:BtoC向け|顧客満足度と市場調査のためのアンケート作成・分析・施策への活用
3.データの加工
収集したデータを分析しやすい形に整えるため、データクレンジングと名寄せを行います。 具体的には、データを統一フォーマットに変換し、不要なデータを削除したり、欠損値を補完したりします。また、異なるシステムからのデータを統合します。
ただし、データの加工だけでは解決できない場合もあり、データの収集手法や取得元そのものを見直す必要が生じることもあります。
4.データの分析・可視化
加工したデータを用いて、目標に関連する分析を行います。顧客のセグメンテーション(属性や行動による分類)、購買トレンドの分析、施策の効果測定などが挙げられます。
分析結果を単なるレポートとして終わらせず、グラフやダッシュボードを活用して可視化し、関係者が理解しやすい形で共有することが重要です。BIツールを利用することで、リアルタイムでの可視化による迅速な意思決定が可能になります。
具体的な分析手法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:ユーザー分析・顧客分析の重要性と6つの手法。分析データの活かし方
5.施策や行動計画の策定・実施
データ分析の結果をもとに、具体的な施策を計画し、実行します。例えば、新規顧客の獲得では、ECと店舗の購買履歴を統合し、ターゲティング広告を配信、CRMでは、顧客ランクごとにセグメントを分け、それぞれに最適なコミュニケーション施策などが考えられます。
目標達成に向けて、具体的なアクションや必要なリソース、スケジュールを決め、施策ごとにKPIを設定します。これにより、施策の効果を適切に測定できます。
6.効果測定
施策実施後、KPIをもとに効果を評価します。売上、コンバージョン率、顧客満足度、リテンション率などの指標を活用し、目標達成度を確認します。さらに、各施策ごとにROI(投資対効果)を分析し、もっとも効果的な施策を特定します。
また、改善点を明確にし、次回の施策へ反映させることで、マーケティングの精度を継続的に向上させます。
関連:デジタルマーケティングの効果測定の方法と指標、分析に役立つツール
データドリブンマーケティングを進めるうえでのポイント
データドリブンマーケティングを進めるプロセスを実施するうえで、知っておきたいポイントを解説します。
適切なKPI設計と継続的なPDCA
データドリブンマーケティングを成功させるには、適切なKPIを設定し、運用する中で過不足がある場合は見直して改善を行うことが重要です。
特に、適切なKPIを設定する際には「KPIツリー」を作成することが有効です。ゴールとなる数字だけを追いかけたり、断片的なデータに注目したりすると、分析結果の解釈が難しくなるため、主要なKPIを明確にしながら設計することが重要です。そのため、まずはKPIツリーをもとに、分析の軸となる主要なKPIを作成して、運用を進める中で不足する場合は、細分化して指標を増やすなど、柔軟に調整しましょう。
また、データ分析するだけで終わらず、分析結果から仮説設定を行ったうえで施策の実行と改善を繰り返すことが重要です。
関連:KGI・KPIとは?企業別の事例と設定手順、KPIツリーの作り方
データドリブンの重要性を全社で理解する
データドリブンマーケティングを進めるためには、データに基づいて意思決定を行うことの重要性を、全社で共有することが必要です。
特にマーケティング部門だけでなく、経営層もデータの活用方法や重要性を理解し、推進する文化を作ることが大切です。例えば、経営層に向けてデータを活用した具体的な成果や施策改善の実例を共有することで、「データ活用が企業の競争力を高める」という意識を持ってもらいやすくなります。また、社内研修を実施し、社員のデータリテラシーを向上させることも有効です。
このような取り組みにより、データドリブンな文化を全社で構築することで、組織全体で一貫性を持ってデータドリブンマーケティングを進めることができます。
部署を越えて連携する
データドリブンマーケティングを成功させるためには、特定の部門だけで完結せず、企業全体でデータを共有し、活用することが不可欠です。
マーケティングの課題は、一つの部門だけで解決できるものではありません。例えば、ECチームがオンライン広告を活用して新規顧客の獲得を図っていても、店舗のスタッフがそのデータを活用していなければ、顧客体験の向上には繋がりません。逆に、店舗での購買データをEC部門が活用できれば、顧客ごとに最適なオンライン施策を実施することが可能になります。
また、カスタマーサポート部門のデータをマーケティング部門が活用すれば、顧客の不満点や問い合わせ傾向を分析し、製品やサービスの改善、適切なコミュニケーション戦略の構築に繋げることができます。このように、異なる部門のデータを統合することで、部分最適ではなく、企業全体としての最適なマーケティング施策を実行できるようになります。
上記例を含めて、マーケティングに活用するデータは、一つの部門だけで完結するものではありません。例えば、顧客の購買データは営業やEC部門が持ち、顧客の問い合わせ履歴はカスタマーサポート部門に蓄積され、Web上の行動履歴はデジタルマーケティング部門が管理しています。これを実現するには、各部門が持つデータを共有し、一元的に活用できる環境を整えることが求められます。
ゼロパーティデータの収集と活用
データ収集の際には、プライバシーへ配慮し、信頼を損なわないことが重要です。近年、プライバシー保護意識の高まりと規制強化により、データの取得規制が厳しくなっていることから、データ収集や利用において顧客の同意がない場合、信頼関係が崩れるリスクがあります。
これからのマーケティングでは3rd Party Cookieに頼るのではなく、ゼロパーティデータと1st Party Dataの活用を軸に考えることが重要になります。ゼロパーティデータとは、アンケートや会員登録時の入力情報、クイズ形式のキャンペーンなど、顧客が自発的に提供するデータを指します。プライバシー保護の取り組みと、データの活用を両立させることが必要不可欠です。
Zero / 1st Party Dataの概要やマーケティング施策への具体的な活用方法について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。データを活用していくうえで必要なことについても紹介しています。
無料資料:Zero / 1st Party Dataを活用したマーケティング施策5選|強まるCookie規制に対する次の一手
データドリブンマーケティングの事例
株式会社パルコ
ファッションビル「PARCO」 を全国で展開する日本の企業の株式会社パルコの事例を紹介します。
パルコは「小売と不動産業のハイブリッド」と表現されるように、顧客にはパルコという場に来てもらう必要があります。また、パルコに入っている店舗は株式会社パルコとは異なる企業が運営するショップです。
そのため、株式会社パルコはデータドリブンマーケティングで、PARCOという場で顧客に快適に買い物ができる場所を提供することが必要になります。
株式会社パルコは、まずは各店舗からレシートのデータを提供してもらい顧客に関するデータを取得しました。そこから買うタイミングや買わない人の特徴など購入に繋がる顧客の情報を分析し、顧客体験を向上させるためにデータを活用しました。
また、自らPARCOのアプリを制作し、オンライン上でもPARCOに入っている店舗の情報やショップブログのような商品に関わる情報を取得できるようにしたり、GPSデータを用いて顧客の店内の動きをデータ化しました。株式会社パルコはデータドリブンマーケティングにより、顧客にPARCOでの買い物を通じて良い体験を提供するための改善に成功しています。
株式会社ジンズ
研究開発から生産販売まで一貫して展開するメガネブランド「JINS」を運営する会社である株式会社ジンズの事例を紹介します。
株式会社ジンズでも、スマホの普及により顧客のニーズや購入行動の変化を感じ、データドリブンマーケティングへの取り組みを行っています。数年前までは、オフラインで情報収集し、オンラインで購入する顧客が多かったのに対し、近年ではオンラインでの情報収集を行う顧客の増加傾向が見られました。
それにともない、株式会社ジンズでは、オフライン・オンラインに関わらず、実店舗でもオフライン店舗でも同じレベルのサービスを提供することが必要だと考え、データドリブンマーケティングをより意識して改善に取り組みました。
具体的な改善施策の1つが、BIツールを使ったデータの可視化です。株式会社ジンズは、コミュニケーション施策1つとして、LINEを用いてクーポンの発行や新店舗などのニュース発信などを行っていました。
しかし、LINEクーポンがどのように売上に貢献しているのか効果測定ができていない状態でした。そこで、BIツール「Looker」を用いて実施後の効果分析まで行えるような環境を構築しました。
BIツールを生かし、LINEによる情報発信の効果を分析し、レポートやダッシュボードで可視化を行いました。効果測定の可視化だけでなく、分析したデータをもとにLINEで発信する情報をセグメントごとに分け、より精度の高いプロモーションを実現しました。
合同会社ユー・エス・ジェイ
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを運営する合同会社ユー・エス・ジェイの事例を紹介します。
以前からデータを活用したサービス展開を検討していましたが、社内の理解が進まず、なかなか実現に至りませんでした。しかし、入場ゲートのチケット機器を刷新するプロジェクトが立ち上がった際、当時のCEOが「ハードの入れ替えだけでなく、マーケティングにも活用すべき」と指示したことで、流れが大きく変わりました。
このプロジェクトをきっかけに、来場者の個人データを活用し、パーク内での行動データを収集できるようにする取り組みが始まりました。「伊能忠敬プロジェクト」と名付けられたこの取り組みでは、パーク閉園後にスタッフが園内を何度も歩き回ってパーク内をデータ化しました。これにより、リアルタイムでの行動データ分析が可能になりました。
その結果、アトラクションやレストランの混雑状況をもとに、来場者にパーソナルガイドを提供できるようになりました。例えば、朝にゲート付近にいる来場者には、カチューシャなどのグッズを勧めるといった、タイミングを考慮したマーケティング施策が実施されています。
さらに、混雑予測の精度を向上させることで、有料の優先搭乗券「エクスプレスパス」の販売量を最適化しました。当日の午前中の利用状況をもとに需要を分析し、販売戦略を柔軟に調整することで、来場者の利便性向上に繋げています。また、行動データを活用することで、「絶叫アトラクションを好むグループ」や「鑑賞系アトラクションを好むグループ」などに分類し、それぞれに適した情報を提供する取り組みも進められています。
今後は、レストランの混雑予測機能を導入するなど、さらなるサービス向上を目指しています。
株式会社JTB
国内最大手の旅行代理店であり、110年以上の歴史を持つ株式会社JTBの事例を紹介します。
近年、顧客体験はデジタルとリアルの境界がなくなりつつあり、企業には変化への対応が求められています。業歴の長いJTBにおいても同様で、データドリブンマーケティングの実現を目指して「web販売部」を立ち上げたものの、当初はデータ活用が進まず、1年間成果を出せない状況が続いていました。
この課題の背景には、明確なビジョンや戦略がないまま施策を進めていたことや、データ統合の計画が長期化していたことがありました。さらに、人材やスキルが不足していたことに加え、チームメンバーの意識が「業務をこなすだけ」になっていたことも、大きな課題となっていました。
そこで、基本コンセプトを明確にし、顧客分析を実現するために必要なチーム体制を逆算して設計しました。そのうえで、適切なメンバーを配置し、体制を整えました。また、データベース構築に2年をかける予定だった計画を見直し、3カ月単位で進める形に変更したことで、施策実現のスピードが大幅に向上しました。
その結果、データを活用した顧客理解が進み、データドリブンマーケティングの実現に繋がり、日々データをもとにして顧客の構造を解明できるようになりました。例えば、セグメントの切り方を考えるときに、これまで年齢や地域、性別といった基本属性のみでセグメントを区切っていましたが、購買文脈を考慮したセグメント分類が可能になりました。
一例として、ハワイ旅行者を分類する際に、宿泊エリアごとにセグメントを切る考え方ができます。1週間の大半をワイキキやアラモアナショッピングセンター周辺で過ごしたファミリーAと、ノースショアまで足を伸ばしたファミリーBでは、ファミリーBの方がハワイ旅行の経験が深いと考えられます。初心者向けとリピーター向けで異なる情報を提供し、同じトップページを見せることやレコメンデーションをしないようにする、というコミュニケーションを取ることが可能になりました。
データを活用することで、顧客ごとに最適な情報を届けることが可能になり、より精度の高いマーケティング施策が実現しています。
データドリブンマーケティングを支援するツール
データドリブンマーケティングを実現するには、消費者の行動、好み、購買パターンなどのデータを収集・分析し、マーケティング施策に活用する必要があります。ツールを活用することで、データ収集から分析、施策実行、自動化、効果測定までのプロセスが一貫して行えるため、意思決定のスピードと精度を向上させることができます。
ここでは、データドリブンマーケティングを実現するうえで役立つツールを紹介します。
MA
MAは、メールによるコミュニケーションを中心として、見込み顧客の情報の取得・育成や既存顧客の育成を行うことができるプラットフォームです。
顧客のweb上の行動データやフォームを作成して顧客情報を取得できますが、オフラインデータの収集ができない、MAで提供していないチャネルに対しては施策を実施できない、営業とマーケティング部門以外への連携ができないといった課題があります。
関連:MA導入のメリット・デメリット、マーケティングオートメーションの課題とは
CRM(SFA)
CRM(SFA)は、顧客との関係性を構築し、一元的に管理できるツールです。基本的な顧客情報から、顧客とのコミュニケーション履歴、営業プロセス、ポイントの管理、キャンペーンに紐づいた購入履歴など、顧客に関わるさまざまなデータを管理できます。
ただし、顧客情報の登録前のユーザー(見込み顧客)情報は管理する機能は備わっていないため、ユーザーによって快適なコミュニケーションとならない可能性があります。
例えば、店舗とECサイトを運営している場合、店舗で登録した会員カードの情報、会員情報に紐付くID-POSにある購買データ、ECサイトの会員情報、会員情報に紐付く購買データ、マーケティング目的のメール配信、カスタマーサポートでの対応情報など、さまざまな情報が存在する一方で、CRMでそれらの情報を統合して運用できる環境を構築するには限界があります。
BIツール
大量のデータを手作業で可視化するには、膨大な工数がかかります。このような場合には、BI(BusinessIntelligence)ツールの利用がおすすめです。
BIツールは、膨大なデータを分析し、その分析結果を経営意思決定に活用できるツールです。レポーティング、データマイニング、シミュレーションといった機能を備えており、データドリブンマーケティングを実施するうえで重要なツールの1つです。
関連:BIツールとは?自社に合うBIツールの選び方と導入事例・方法
しかし、BIツールはデータを可視化するためのものであり、基本的にはデータを貯める箱は別に用意する必要があります。
CDP
CDPとは「カスタマー データ プラットフォーム:Customer Data Platform」の略称で、あらゆる顧客のデータを収集・統合し、データを活用できる環境を整えるマーケティングシステムです。
関連:CDPとは?機能や部門・業界別の活用例、今後の動向などをまとめて解説
CDPを利用することで、さまざまな部署やシステムに散在しているデータを収集し、顧客を1人の人物として管理できるように、データを統合できます。
また、CDPはBI・MA・メール配信ツールといった外部ツールとも連携可能です。CDPで統合したデータを活用することで、データに基づいた顧客視点の分析や施策が実現し、より精度の高いコミュニケーションが可能になります。これにより、正確なデータ分析や効果的なマーケティング施策の実行が可能となり、データドリブンマーケティングを推進するための基盤が整います。
CDPについて、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。CDPの機能や役割、ほかのツールとの違いなど、導入前に知っておくべき情報をまとめて紹介しています。