2022.02.21

One to Oneマーケティングとは?パーソナライズとの違いや実践事例

One to Oneマーケティングとは?パーソナライズとの違いや実践事例

近年、市場の変化によって「市場シェア」を拡大する戦略から「顧客シェア」を高めていく戦略に転換している企業が増えています。それに伴い、一人ひとり異なるアプローチを行いながら、顧客との良い関係を構築をする「One to Oneマーケティング」が注目されています。

本記事では、One to Oneマーケティングとはなにか、パーソナライズとの違いや実践事例、One to Oneマーケティングを成功させるポイントについて紹介します。

One to Oneマーケティングとは

One to Oneマーケティングとは、顧客に対して必要な情報を的確に届けることで、顧客と企業の間に良好な関係性を築き、顧客のロイヤリティを高め、LTVを最大化することを目的としているマーケティング活動です。

アメリカで1993年に出版されたマーケティングコンサルタントのドン・ペパーズとマーサ・ロジャーズの共著 「The One to One Future: Building Relationships One Customer at a Time. Doubleday Business.」(邦題「One to Oneマーケティング - 顧客リレーションシップ戦略」)の中で提唱されました。もともとOne to Oneマーケティングは、既存顧客と良好な関係を築き、長期的なリピーターになってもらい、企業の利益を最大化することを目的とした「リレーションシップマーケティング」の考え方の上に成り立っています。

One to Oneマーケティングが重要視される理由

One to Oneマーケティングが重要視される背景に、人口減少などによって、経済活動が縮小傾向にあるため、マスマーケティングのような「市場シェア」を拡大する戦略から、顧客の自社への支出の割合を高める「顧客シェア」を高めていく戦略へと転換したため、One to Oneマーケティングが注目されるようになりました。

加えて、One to Oneマーケティングの概念は20年以上前から提唱されていましたが、昨今のデジタルやIT技術が進化したことにより、顧客の情報は以前よりも収集しやすくなり、膨大なデータを解析してカテゴライズを行うことができるようになりました。これらの技術を用いることで、何万人、何百万人という顧客に対しても、一人ひとり異なるアプローチができるようになったため、近年、One to Oneマーケティングに取り組む企業が増えてきました。

One to Oneマーケティングとパーソナライズの違い

One to Oneマーケティングとパーソナライズを混同するケースも多くありますが、パーソナライズは、あくまで顧客の属性や購買、行動履歴にもとづいて最適な情報を提供する「手法」です。

パーソナライズを行う際に、顧客起点でパーソナライズを実施できていないケースやCVに注視したパーソナライズを行った結果、顧客とってよくないコミュニケーションを行ってしまうケースも多くあるため、One to Oneマーケティングの顧客理解・体験の向上のためのシナリオ設計などに基づく、パーソナライズの施策を行うことが必要です。

パーソナライズについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

関連:パーソナライズとは?BtoB / BtoCでの施策例や実現に必要な4つのデータと注意点

One to Oneマーケティングのメリット

顧客との信頼関係を構築できる

企業側から顧客へと一方的に発信する情報は、受け取る側のニーズによっては有益な情報にも不要な情報にもなり得ます。顧客のニーズに合わない情報を送り続けることで、信頼を失い、二度と商品が購入されなくなったり、サービスの解約にも繋がりかねません。

一方、One to Oneマーケティングに基づいたアプローチは、顧客への不快感を減らすことができます。また、有益な情報を提供することにより、企業に対する信頼感や愛着心も育てられるため、効率よく顧客と良好な関係を構築できます。

収益向上に繋がる

One to Oneマーケティングは、顧客の行動履歴や購買履歴をもとに分析し、購買意欲の高い見込み客に最適なタイミングで適切なアプローチができるため、より購買に繋がりやすい特徴があります。

また、新規顧客を獲得するよりも既存顧客を維持する方がコストが低いことはよく知られていますが、顧客がサービスやコミュニケーションに満足していれば、競合他社ではなく、その企業を支持してくれる可能性が高くなります。One to Oneマーケティングによって、購買率を高めたり、自社の商品やサービスを継続的に利用してもらうことで収益向上にも繋がります。

One to Oneマーケティングの施策例

One to Oneマーケティングを行ううえで、新規の接点まででなく継続的な接点も考慮したカスタマージャーニーを描くことが重要で、どのチャネルでどのようなコンテンツを提供すべきを考える必要があります。

チャネル

チャネルの観点では、コミュニケーションにおけるプッシュ・プルを意識して設計を行う必要があります。

デジタルチャネルの観点でいうと、メールやモバイルアプリのプッシュ通知などプッシュ型のコミュニケーションチャネル、webサイトやモバイルアプリにアクセスしてもらい閲覧・体験をしてもらうというプル型のチャネルがあります。

デジタル広告の観点では、リスティング広告のように検索体験の中に差し込むプル型の広告、ディスプレイ広告のように興味関心が明確に存在しているかわからない人に対して打ち出すプッシュ型の性質を持つ広告(ターゲティング内容によってはプル型の性質を持つ場合もある)があります。

関連:タッチポイント(顧客接点)とチャネルの違い、利益UPのための強化方法

プッシュ型のチャネル

プッシュ型のコミュニケーションチャネルについては、配信を行う時間(いつ)や、どのチャネル(どこで)といった観点での設計が重要で、配信するコンテンツとして誰に・どのような内容を提供するのかという観点とあわせて設計を行って実施していきます。

プッシュ型のチャネルにおいて注意すべきことは、顧客に対して脅迫的なコミュニケーションとならないようにすること、また適切なコンテンツの提供を行うことです。

One to One のコミュニケーションのために、各種パーソライズの施策を実施していくことになりますが、パーソナライズの設計次第では複数のプッシュ型のチャネルで共通のメッセージが何度も届くことになる可能性があり、これにより多くの顧客の体験を損ねていてはOne to Oneマーケティングとは言えません。

顧客の行動から他のチャネルですでに提供した情報を他のチャネルで提供しない(モバイルアプリのプッシュ通知を閲覧したユーザーに対して、その後メールで同様の内容を送らない)、顧客ごとの過去の傾向から閲覧傾向の高いチャネルへのコミュニケーションに絞る(メールはいつも開封されないがモバイルアプリのプッシュ通知は開封するユーザーに対してプッシュ通知の配信に寄せる)といった手段が考えられます。また、顧客が情報を受け取りたいチャネルを顧客自身がカスタマイズできるような機能を提供するのも1つの手段です。

チャネルの考え方とあわせて顧客ごとに配信するコンテンツをコントロールする、また顧客が受け取りたい情報をカスタマイズできる機能を提供する必要があります。

プル型のチャネル

プル型のチャネルのうち、webサイトやモバイルアプリ、また接客を伴わない実店舗も同様に設計が必要となりますが、利用するチャネルを選択するのは顧客なのでそれぞれのチャネルにおけるメリットの提示と複数チャネルをまたがって違和感のないコミュニケーションを行うことが重要です。

プル型のチャネルにおいて、webサイトやモバイルアプリへの訪問自体は顧客の行動であってもポップアップを用いたコミュニケーションや実店舗での接客などはプッシュ型の要素を持つものがあります。これについてはプッシュ型のコミュニケーションにおける注意点を意識して設計を行う必要があります。

オウンドメディアなどを運営している場合には、関連している情報の提供や何らかのCVの導線の設計を行うことになるかと思いますが、すでに購入している商品をおすすめしていたり、すでに閲覧されている情報の提供を積極的に行っていてはOne to Oneマーケティングとは言えません。コンテンツ同士の関係によるレコメンドのみでなく、顧客の行動情報も用いたレコメンドを行う必要があります。

ECサイトなどでの商品レコメンドの観点では、webサイトとモバイルアプリの2つで提供している場合は顧客ごとの商品の閲覧情報や購買情報を用いた設計にして共通の体験が提供できるようにすべきであり、また実店舗がある場合は実店舗での購買情報もあわせた設計にする必要があります。

ただし、とにかく顧客にとって良い体験ということを追い求めて膨大なシステムコストがかかり、数年規模で利益を圧迫し続けて回収できないようでは、企業活動としては本末転倒です。各チャネルの利用率や、複数チャネル横断のクロスユース率に関する現状と今後の目標をもとに判断して進める必要があります。

One to Oneマーケティング事例

ソニーマーケティング

総合電機メーカーであるソニーの子会社で、家電製品を中心としたマーケティング業務全般を行っているソニーマーケティングの事例を紹介します。

ソニーマーケティングは、今後の日本は、人口減少や高齢化による使い慣れた商品への傾倒、ライフスタイルの多様化による家電購入機会の減少など、新規顧客の獲得が困難になると予想し、ソニー商品を継続的に使用する「ソニーファン」を増やすことを目的としたOne to Oneマーケティングを始めました。

One to Oneマーケティングによってソニーファンを増やすという目的に沿って使われている独自のフレームワーク「ロイヤリティループ」をベースにしたアプローチに切り替え、メール、広告、購入後の施策などを実施することで、従来のやり方と比べて効果効率は向上しています。

ソニーマーケティングはOne to Oneマーケティングを実践するうえで重要なことに、データを一元管理すること、組織を超えた連携体制を取ること、共通のビジョン・フレームワークを持つことが重要だと述べています。

ディノス コーポレーション

通販大手のディノス コーポレーション(旧:ディノス・セシール)の事例を紹介します。

ディノス コーポレーションは、ECサイトと紙のダイレクトメールをリアルタイムで連携させたOne to Oneマーケティングを実施しました。

ECサイト上でカゴ落ち情報を抽出して、最短24時間以内にカートに入っている商品内容を、一人ひとり印刷内容を変えてダイレクトメールを発送するという取り組みを行いました。ダイレクトメールを受け取った顧客は、受け取っていない顧客よりも購入率が約20%アップし、また、同社はこの取り組みによって、日本郵便主催の「全日本DM大賞」で第33回のグランプリを受賞しました。

すかいらーくグループ

ファミリーレストランとして有名なすかいらーくグループの事例を紹介します。

すかいらーくグループが全国に約1,300店を展開するファミリーレストラン「ガスト」のPOSデータや公式モバイルアプリ「ガストアプリ」のログデータなど、100億レコードを超える膨大な顧客データを解析し、顧客一人ひとりに違ったクーポンを配布したことで、2014年上半期の広告宣伝費を前年同期比で10%以上削減しながら、売上高39億円で2.9%の成長がありました。

リンナイ

給湯機器やガスコンロなど、熱エネルギー機器の製造販売を行う大手メーカーのリンナイの事例を紹介します。

リンナイは「リンナイのある暮らし」というオウンドメディアを開設しており、料理レシピや暮らしに関するコラムなどを提供し、また、「Rinnai Style」という自社ECサイトも運営しています。

ECサイトの会員データ、注文データ、商品データ、クリック履歴、販売したい商品の情報を分析し、その商品に反応しそうな対象顧客を会員データから抽出できる仕組みを作り上げました。

これらのデータに基づいたメール配信をしたことによって、同じ内容のメールを一斉送信していた時と比較して、開封率で約3.7倍、クリック率で約2.4倍、購買率が約12.6倍という数値に繋がりました。また、オウンドメディアとECサイトを連携させ、顧客を誘導することで、顧客との関係性を構築しました。

One to Oneマーケティングを成功させるポイント

One to Oneマーケティングに必要なのは、十分な顧客分析と顧客理解です。オンラインの行動データを活用しながら、顧客の視点に立った仮説やシナリオを組み立てていくことが重要です。

また、実店舗における購買履歴や接客時の会話、顧客アンケートなどオフラインのデータなども組合せつつ、顧客理解を深めていくことが大切です。顧客の解像度が高いほど顧客に対して、より適切で効果的なコミュニケーションを行え、マーケティング効果を高められます。

選ばれ続ける企業となるために取り組むべきコミュニケーションの全体設計について、詳しくは下記の資料をご覧ください。

無料資料:データによる顧客中心のコミュニケーション再構築|これからの市場で選ばれる企業になるために

データによる顧客中心のコミュニケーション再構築|これからの市場で選ばれる企業になるために

One to Oneマーケティングを実現させる3つの要素

データ

データには、webや店舗での購買履歴、自社サイト内の行動データ、広告データ、CRMデータ、売上データなど、さまざまなマーケティングデータや顧客データがあります。

これらのデータがバラバラに管理されている状態を「データのサイロ化」と言いますが、データが分断されているとOne to Oneマーケティングが思うように進められません。まずは、あらゆる顧客データを一元管理することから始めていきましょう。

関連:「データのサイロ化」5つの問題と解決策。攻めのDX推進を妨げるサイロ化の原因とは

ストーリー

一元管理された顧客データをもとに、データを分析し、顧客データから想定されるペルソナを作成し、カスタマージャーニーに基づいた、次のようなシナリオを用意することが重要です。

  • いつ:タイミング
  • どこで:チャネル
  • 誰に:セグメント
  • 何を:コンテンツ

これらのシナリオをあらかじめ用意しておくことで、顧客ごとに最適なチャネルやタイミングで、顧客とって良いコミュニケーションをとることができるようになります。

関連:カスタマージャーニーとは?効果的なマップの作り方と2つの活用事例

技術

収集したあらゆる顧客データをもとに分析を行い、ストーリーを設計するには、膨大な顧客情報を統合管理、活用できるインフラが必要です。一元的に統合されたデータをもとに、リアルタイムにコミュニケーションを行うことで、顧客の態度変容を捉えた施策を行うことができるようになります。

下記の資料では、企業の正しいデータ管理についてご紹介しています。無料でダウンロードできますので、ぜひご活用ください!

無料資料:企業を強くするデータの持ち方・使い方のダウンロードはこちら

企業を強くするデータの持ち方・使い方

One to Oneマーケティングを実現するCDP

顧客情報を統合管理、活用できるインフラや顧客データ基盤を自社で構築することも可能ですが、その顧客データ基盤として、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)も1つの手段です。

CDPとは「カスタマーデータプラットフォーム」の略称で、企業の顧客に関するデータを管理し、「実在する個人」に紐づけて顧客データを集め、顧客一人ひとりを理解することを可能にするプラットフォームです。また、顧客一人ひとりに合わせた体験を提供できるよう、さまざまな外部ツールに連携することができます。

CDPの導入によって顧客データを一元管理できるので「誰が・いつ・何をした」という情報だけでなく、顧客はなぜ購入したのか?なぜ他企業を選んだのか?という顧客インサイトを突き詰めていくことができます。

そのうえで「顧客目線」のコミュニケーションを実施し、スピーディーに改善を進めていくことが可能です。CDPについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。

関連:CDPとは?カスタマーデータプラットフォームの機能やメリット、活用例を解説

EVERRISEが提供するCDP「INTEGRAL-CORE」

弊社EVERRISEでは、顧客データをノーコードで管理できるCDP「INTEGRAL-CORE」を提供しており、これまでTVerさまやキーコーヒーさま、hoyuさまなどを含め複数社の導入実績がございます。

  • CDP「INTEGRAL-CORE」の特長
    • 顧客に関するあらゆるデータを収集・統合
    • ノーコードでデータ集計やセグメント作成
    • 外部連携機能でBIツール・MA・CRMなどへデータを渡し、マーケティング施策へ活用可能
    • 自社開発システムならではの総合支援体制
    • 専用環境での提供も可能な国産CDP

CDP「INTEGRAL-CORE」の機能や特長、ユースケース、実際の画面については、以下の無料資料で詳しく紹介しています。データ活用にお困りの際はぜひお気軽にご相談ください!

無料資料:CDP「INTEGRAL-CORE」サービス資料のダウンロードはこちら

Related Post

関連記事