近年、DXの潮流からデータ活用が1つのキーワードとなっている中で、メーカー・製造業界においても売上の向上や部署間・ブランド間での連携強化を目的とした顧客データ活用の検討・実施をする企業が増えています。
本記事では、食品・飲料や日用品、化粧品、健康食品、雑貨など主に消費財メーカーを対象に、メーカー・製造業界の3つの課題と解決策、CDPによるデータ活用について紹介します。
メーカー・製造業においてデータ活用が重要視されている理由
製造業では、顧客ニーズの多様化が進み、画一的な製品ではなくより個別にカスタマイズされた製品開発や、製品のライフサイクルが短くなっていることによる製品の迅速な開発改良が求められています。さらに、グローバルな競争にもますます直面しており、地域ごとのニーズや規制の違いを理解して、そこに応じた戦略を取る必要があります。
こうした市場環境の変化に対応するためには、企業競争力を強化する必要があります。企業競争力を高めるための手法の1つとして、DX化への取り組みがあります。業務効率化やコスト削減など、既存の商品やプロセスを最適化して、リスクを最小限に抑えることを目指すような守りのDXにはすでに取り組んでいる企業も多いのではないでしょうか。
一方で、新しいビジネスチャンスを創出し、競争優位を築くことや、新たな価値提供や成長戦略に繋げる攻めのDXの推進も必要です。例えば、顧客の購買データ、行動データの分析・活用をすることで、顧客の嗜好や購買パターンを把握することができ、その情報を新製品開発に活かしたり既存商品の改善活動に使用することで、顧客満足度や企業競争力を向上させることができます。
このように、製造業が市場の変化に柔軟に対応するためには、顧客データや製品データの分析・活用を進め、データドリブンな意思決定を行うことが不可欠であり、特に顧客の購買データや行動データを活用した攻めのDXを推進し、企業競争力の強化を図る必要があります。
本記事では、攻めのDX領域のデータ活用の課題と解決策、また国内の事例についてご紹介します。
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メーカー・製造業界における3つの課題
メーカー・製造業界界における主な課題は3つあります。
顧客から情報が取得しづらい
メーカーでは、商流として流通を経た販売が中心で顧客との距離が遠いため、顧客データを取得しづらいという課題があります。
顧客に対して直接販売するチャネルを持たない、あるいは直販の比率が大きくないメーカーにおいてよくあるのは、消費者が製品を直接取引することなく、消費者の手元に届くまでに、メーカーが生産した製品を卸売業者と小売業者を介して販売するケースです。例えば、スーパーや百貨店、コンビニなどの小売店が顧客との購入接点です。
このようにメーカーは顧客との間に業者を挟むケースが多いため、顧客データを取得できる機会が少なく、顧客が購入に至ったプロセスや潜在ニーズを特定することが難しいです。メーカーが取得できるデータとしては、直接的なものではアンケートに対する回答やサポートでの問合せ履歴などです。
各小売の事業者におけるID-POSデータの購入という方法もありますが、あくまで事業者ごとに異なる顧客IDであったり、顧客の属性情報の明細を得られない場合もあり、顧客の購入プロセスやニーズを特定できるほどの顧客データを集められないことが多いです。
近年、市場の成熟化や情報社会化により、顧客ニーズの多様化は進み、また流行のサイクルも速くなる中で、メーカーや製造業も時代の変化に合わせた対応が求められています。これらの変化に合わせて新製品を企画したり、顧客満足度を向上させるうえでは、勘に頼るのではなく、自社の顧客を理解し、ニーズに合致した製品の創出やコミュニケーションを実施することが必要です。
そのためには、顧客との直接的な接点を増やして、顧客データを取得できる状況を作ることが必要です。
サポートから取得したデータが散在している
メーカーの製品の問合せや修理などのアフターサービスを受け付けるサポート部門は、顧客の声やフィードバックなど、直接顧客からデータを取得できる貴重な機会です。しかし、データが散在していたり、データが正しく管理されていないために、貴重な顧客データを活用できていないケースが多く存在しています。
データが散在している原因は、webサイトの問合せフォームや電話、FAXなどの問合せ履歴が他部署の顧客マスタと紐づいていないケースがあります。
これにより、サポートの担当部署内で問合せに関するデータが途絶えてしまい、貴重な顧客の声をキャッチアップできず、他部署が製品の改善や新製品の開発などに生かすことができません。
また、そもそもデジタル化が進んでいなかったり、デジタル化をしていてもwebサイトの問合せフォームや電話、FAXなどの各問合せデータがそれぞれのシステムで管理され、サポート内でデータが散在しているケースもあります。
このような場合、システムを管理している担当や部署ごとに統一されていない固有のルールがあったり、問合せ種別の規則が不明確でデータを参照しづらいといったことが起こります。サポート内やオペレータ同士で円滑に情報共有できず、結果的に属人化を引き起こしていることも少なくありません。
データが正しく管理されていなければ、例えばコールセンターにおいて、他のオペレーターが対応した際に、過去にどのような対応したのかが分からず、オペレーター同士の確認の工数が増え、顧客への回答に時間がかかってしまうでしょう。最悪の場合は、顧客からの問合せ内容が分からず、顧客に一から説明をしてもらうことになるため、顧客満足度や企業に対するイメージの低下にも繋がりかねません。
加えて、そもそものサポートのあり方として、サポートのチャネルが少なく、管理を行う環境がない場合もよくあります。サポートが電話のみしかなければ、顧客は仕事などを理由に電話ができず、非常に不便な対応を強いられていると感じます。直接顧客の声を聞ける貴重な機会を逃さないよう、体制も含めて考えていく必要があります。
部署・ブランドごとでデータが分断している
メーカーは部署や自社内で複数のブランドを展開しているケースがよくありますが、部署ごとブランドごとにデータが分断されてしまっていることにより、部署・ブランドをまたいだマーケティングが実施できていないという課題もあります。
部署ごとにおいては、製造部門であれば(製品データ)、マーケティング部門であれば(顧客データやデモグラフィックの集計データ)など、各部署でデータが閉じ、連携されていないことが多々あります。
主にマーケティングに関する部署で顧客データを扱うことが多いですが、その中でもプロモーションの観点で利用したり、取得できるデータによっては開発や製造、営業でも顧客データを活用できます。部署ごとにデータが分断されてしまうことで、各部門がそれぞれに業務を改善する機会が減ってしまい、社内全体の効率化を目指すことが難しくなります。
また、ブランドごとにデータが閉じているケースは、webサイトやアプリの行動データや、アンケートやキャンペーンのデータなどを各ブランドごとに所有していることが挙げられます。
ブランドごとにデータが分断していると、購入層が似ているブランドの場合、データを活用できず使用できるデータ量が減ってしまったり、施策の評価において利用することも困難です。
ビジネスにおいて企業価値の向上と競争力の強化が必要であるため、会社全体としての機会損失を防ぎ、会社全体やグループ会社全体でデータを活用していくことが大切です。
メーカー・製造業界における課題の解決策
メーカー・製造業界における主な課題3つに対して、それぞれ解決策を紹介します。
顧客から情報を取得するための施策
データを活用してメーカーの課題を解決するためには、顧客との直接的な接点を持てる場を増やすことが大切です。
企業と顧客の接点を増やすためには、登録制のブランドサイトを作り、その中でアンケートを実施したり、工場見学や新商品のモニターの募集を行うことで顧客の情報が取得できます。取得した顧客との接点をもとに、顧客にとって有益な情報をメルマガやLINEで配信することで顧客ロイヤルティを高めたり、LTV向上に繋がります。
また、商品を好きになってもらうための、会員制のファンクラブを開設したり、ロイヤルカスタマーに対してはアンバサダーを募集するのも1つの手法です。
ファンクラブの開設やアンバサダーの募集は、商材自体の興味を高めたり、企業や商品のエンゲージメントを高めることで、結果的に商品の単価を高めることができます。
適切なコミュニケーションを行うための施策
顧客と適切なコミュニケーションを行うために、顧客とのやりとりをデータで管理するシステムの構築や管理ツールを使用する必要があります。
さらに重要なのは、顧客単位で管理されている情報を、データとして扱いやすい状態にすることです。データとして扱いやすい状態とは、問合せをテキストの打ち込みや文字起こしのみでなく、選択肢として情報を持てる状態にしておくことです。
また、webの行動履歴やメール・SNSを通じてやり取りしたコミュニケーション履歴なども閲覧できるCRM(Customer Relation Management)などを活用するのも1つの手です。これらの情報を一元化することにより、顧客の行動履歴をリアルタイムで確認することができるので、顧客との関係性を把握したうえで、適切なコミュニケーションを行うことができます。
例えば、コールセンターにおいては、顧客の基本情報やwebでの行動履歴を見れるようにすることで、過去のやりとりを一目で確認することができ、顧客が必要としているコミュニケーションを行えるようになります。
加えて、過去の問合せやフィードバックなどのデータを、一気通貫で顧客の声を繋げることで、営業やマーケティングに活用することができます。さらに、業務効率の観点では、よくある問合せをFAQサイトに掲載することで、同じような問合せでの回答を減らすことができたり、チャットボットなどのweb接客の導入によってサポートコスト削減にも繋がります。
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部署・ブランドごとでのデータ連携の施策
部署・ブランドごとで管理している自社の顧客データを集約し、顧客一人ひとりに結びつけて管理することで、部署・ブランドをまたいだ顧客理解を得られる環境を作り出すことができます。また、顧客データの母数が増えることで分析・セグメントの精度が上がり顧客理解を深めることができます。
部署ごとでのデータ連携の施策は、マーケティング以外にも顧客データを活用することができます。例えば、開発部門においては自社の顧客データをもとに新商品の開発、製造部門においては、購入履歴をもとに過剰在庫を減らすことができます。
また、ブランドごとでのデータ連携の施策は、ブランドA では有効なキャンペーンもブランドB ではあまり有効ではない、ブランドC とブランドD の客層が似ているなど、今まで「なんとなく」で予想されていたニーズを明確化し、共通のデータをもとに意思決定を行うことができるようになります。
部署・ブランドをまたいで顧客データを集約することで、顧客理解をもとに、新たなサービスの提供や既存サービスの拡張を視野にした戦略立案を可能にし、競争力の強化や利益拡大を実現できます。
加えて、一元管理されたデータを分析結果をもとに各マーケティングツールと連携を行い、施策を展開することでマーケティング成果の向上にも繋がります。
メーカー・製造業界のデータ活用事例
SUBARUでのデータ活用
大手自動車メーカーのSUBARUのデータ活用事例を紹介します。
SUBARUでは、すべての顧客接点をすべてデジタル化することでデータを会社のパワーにし、データドリブンな意思決定ができるようにデータ基盤をもとにした企業改革を行っています。
また、従来は難しかった顧客との直接の接点をデータを活用することで作っていき、モノ作りの業務プロセスをデータを用いて、業務の効率化や課題を可視化してチームで共有・分析しながら問題解決に繋げる取り組みを行っています。
販売促進の領域においては、webの閲覧履歴から、顧客がどのように車に向き合っているかを掴み、適切な情報発信に繋げることが可能になりました。また、その結果をBIで分析することで、従来の枠を超えてさまざまな部門で課題を共有し、問題解決できるようになっています。
味の素でのデータ活用
大手食品メーカーの味の素のデータ活用事例を紹介します。
味の素では、各ブランド担当者が、さまざまな外部ツールを利用していたため、ツールごとにデータを収集し管理、独自に分析を行っていました。その結果、担当者・ブランドごとで参照しているデータソースやデータの見方がバラバラになり、データ分析に時間や工数がかかったり、各広告キャンペーンが購買に寄与しているのかの分析ができない状態でした。
そこで味の素では、データを集約・可視化・解析できるデータ活用の基盤を整え、コミュニケーション施策や店頭活動の貢献度合いの変化をグラフで可視化できるようにしました。さらに、これらのデータをブランドごとに比較を行えるようになったため、プランニングにも活用できるようになっています。
また、データを一元管理したことで、直近の販売動向の把握だけでなく、テレビCMを放映した際の店頭の売上との連動を素早く把握できるようになりました。
パナソニックでのデータ活用
大手家電メーカーのパナソニックのデータ活用事例を紹介します。
パナソニックでは、家電事業において、商品購入後も顧客と繋がり続け、暮らしを支えるベストパートナーとなることを目指す方針を立てています。
これまでは、商品を一度販売したら関係性が終わる、商品の購入時点が期待値と満足感のピークとなるような売り切り型モデルとなっており、経年とともに顧客満足度は減少していました。今後は、商品を専用アプリに接続して、ソフトウェアをアップデートしたりすることで購入後の接点を広げ、購入後も満足度を高めて体験価値を提供し続ける方針となっています。
この取り組みは、2023年2月発売のIoT対応冷蔵庫からサービスを開始していて、以後、エアコン、ドラム式洗濯乾燥機、スチームオーブンレンジ、自動調理鍋、テレビ、など対象となる製品を拡大しています。 さらに、顧客の使用状況などのデータを、商品設計に活かす取り組みも行っています。
花王でのデータ活用
大手日用品メーカーの花王のデータ活用事例を紹介します。
花王では、全社に散在する各種データを統合的に管理するデータレイクを構築して、売上データの管理と活用を強化しています。
以前は、データが全社に散在していることにより、売上関連のデータを加工・抽出するのに時間がかかっていました。また、人手で作業をするため人為的なミスも発生しやすく、意思決定者にデータが渡るまでに時間がかかっていました。
データレイク基盤を整えたことで、毎朝自動でデータを出力しPDFにして、部長クラス以上の社員にメールでタイムリーに共有することができるようになりました。それによって、販売戦略立案や、新商品開発などに多く時間を割けるようになりました。 実際に、ヘアケアの新ブランド「melt」は従来の6倍のスピードで新商品開発が実現しました。
メーカー・製造業界がアプローチを成功させるCDPでのデータ活用
顧客理解を進めること、また顧客や商品データを一元管理するためには、インフラを整える必要があります。そのインフラとして、CDP(Customer Data Platform)が1つの解決策です。
CDPとは「カスタマー データ プラットフォーム:Customer Data Platform」の略称で、あらゆる顧客のデータを収集・統合し、データを活用できる環境を整えるマーケティングシステムです。
関連:CDPとは?顧客データ活用に特化したCDPの機能とメリット、事例などの基礎知識まとめ
顧客データを一元管理
CDPは、名前やメールアドレスなどの個人情報、webサイトやアプリでの行動履歴、サポートへの問合せ履歴、アンケート情報など、顧客に関するすべてのデータを収集し「実在する個人」にデータを紐づけて一元管理できます。
多くの企業では、webサイトや問合せ履歴、メルマガ、アプリなどそれぞれのチャネルごとに顧客管理システムを持っており、1人の顧客に対して別々の顧客IDを割り振り、別人として管理されているケースが多々あります。これは「データのサイロ化」と言い、顧客データがシステムやツールごとに分断されて管理されている状態です。
データは顧客単位で紐づけられていなければ、実際は同じ人物が行った行動でありながらもデータ上では別の人物として認識し、顧客を正しく理解できなかったり誤ったコミュニケーションを行ってしまったりという可能性があります。
メーカー・製造業界では、よく以下のようなツール・システムや自社構築のプラットフォームが導入・利用されていますが、データのサイロ化を解決するために、CDPはこれらのツール・システムと連携し、顧客データを1つに統合することが可能です。
ツール名 | webアクセス解析ツール | CRM / SFAツール |
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ツールの例 |
・Adobe Analytics ・Google Analytics ・Ptengine など |
・Salesforce ・Synergy! ・HubSpot CRM ・eセールスマネージャー ・F-RevoCRM ・kintone ・Zoho CRM など |
CDPを導入することで、IDを1つにして複数のチャネルで収集した顧客データを統合できます。また、1人の顧客として分析できるようになります。
データの可視化
CDPは、データを収集・統合するだけでなく、統合したデータをBIツールに連携し、分析・可視化することができます。
ツール名 | BI / 分析ツール |
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ツールの例 |
・Tableau ・Looker Studio(旧Google Data Portal) ・Yellowfin ・Amazon QuickSight ・DOMO ・Redash など |
「顧客を理解する」ためには、データの可視化は必須です。webサイトの訪問履歴や購入履歴、アンケート結果、サポートの問合せ履歴など、さまざまな情報を取得することができるかと思います。
しかし、データを集めるだけでは、顧客理解には繋がりません。CDPでデータを可視化することで、顧客の動向やニーズを把握することができます。また、メールやLINEなどのコミュニケーションに対する顧客の反応も可視化し、最適なコミュニケーションに繋げられます。
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顧客との適切なコミュニケーション
CDPは顧客データを一元管理できるうえに、以下のような施策を行うツール(MAツールやプッシュ通知、web接客ツールなど)に連携でき、分析した結果をもとに顧客に対して適切にアプローチしていくことが可能です。
ツール名 | MA / メール配信 / その他施策 |
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ツールの例 |
・Marketo ・Marketing Cloud Account Engagement(旧 Pardot) ・HubSpot ・Synergy! ・Karte ・DLPO ・LINE ・Repro ・WEBCAS email など |
例えば、ブランドサイトに登録してくれた顧客に対して、誕生月に限定クーポンをメール・LINEを利用したアプローチがあります。CDPを導入し、セグメントを分けて顧客に対して適切なコミュニケーションを図ることで、売上アップや機会損失を最小限に抑えられます。
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