近年、カスタマーサクセスという言葉が一般的になってきており、ここ数年で企業のカスタマーサクセス部門の設置やカスタマーサクセスに関わる求人が増加しています。
本記事では、カスタマーサクセスが注目される背景や目指すKPI、成功のポイントを紹介します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、自社の商品・サービスの利用によって顧客が目標を達成し「顧客の成功」を実現するための活動のことです。
顧客が商品購入・サービス契約をしたらそこで終わりではなく、その後も能動的なサポートなどを通して顧客の目指しているビジネスゴールの実現や成功体験へ導き、同時に自社の利益の向上を測るのがカスタマーサクセスの役割です。
カスタマーサクセスは、顧客に商品の再購入やサービスの継続利用をしてもらい、最終的にLTVを最大化することを目指しています。
カスタマーサクセスの主な業務
具体的には、以下のような業務が挙げられます。
オンボーディング・運用支援
オンボーディングとは、新しく商品やサービスを使い始めたユーザーがより早く慣れて使いこなせるように導くプロセスのことです。まず自社の商品・サービスを顧客に利用していただき、継続利用および解約防止のための活動はカスタマーサクセスの業務の中心となります。
BtoBでは顧客ごとに担当者が付き、定期的なミーティングなどを設けてサービスのオンボーディング支援・運用支援を行い、長期に渡って支援をすることが多いです。BtoCでは顧客数が多く個別に担当をつけるのが難しいことが多いため、メールなどを用いて多数の顧客へ向けた支援を行います。
ユーザーコミュニティ運営
ビジネスモデルを問わず、商品やサービスのユーザーが集まって情報共有をする場であるユーザーコミュニティを持つ企業では、その運営や戦略設計をカスタマーサクセスが行う場合があります。ユーザーコミュニティでは顧客同士が自発的に交流し、ノウハウの共有などコミュニケーションを取るため、オンボーディングのサポートや新たなニーズの発見に繋がることがあります。ユーザー同士が安心して利用でき、活発に交流し続けるための仕組み作りを行います。
カスタマーサポートとの違い
カスタマーサクセスと似ている言葉にカスタマーサポートがあります。2つのもっとも大きな違いはそれぞれの活動の姿勢です。
カスタマーサポートの主な活動は顧客の問合せやクレームへの対応です。顧客の中に不満や疑問が生じ、顧客自らが企業へアクションを行ってから初めて対応することになるため、基本的に受動的な姿勢になります。不満を持ったまま解約していってしまう顧客へはアクションすることができません。
それに対しカスタマーサクセスの活動は、顧客のニーズや目標達成に必要な行動を予測して先回りして動く、能動的なものになります。
CXとの関係
CX(カスタマーエクスペリエンス:Customer Experience)とは「顧客体験」「顧客体験価値」のことです。顧客が企業と接触するあらゆる機会において、顧客が感じた感情を含めたすべての体験の価値を指します。
カスタマーサクセス、カスタマーサポートの活動もCXの中に含まれており、CXの向上はカスタマーサクセスの成功にも繋がります。
カスタマーサクセスツールを提供するGainsight社のCCOの著書「カスタマーサクセス・プロフェッショナル」では、CXとCO(カスタマーアウトカム:顧客の成果)の足し算をカスタマーサクセスと定義し、どちらも実現することがカスタマーサクセスに繋がるとしています。
カスタマーサクセスが注目される理由
カスタマーサクセスが注目される背景には、月単位などで定期的に料金を支払いサービスを利用できる、サブスクリプションモデルビジネスの急成長があります。BtoB、BtoCを問わず「モノを買って所有する」のではなく「必要な時に利用する」という考え方が一般的になってきています。
サブスクリプションの場合、企業の利益のためには商品・サービスをより長く使ってもらうことが重要です。特にSaaS型の製品はすぐに導入しいつでも利用できる反面、使いづらいなどの理由で気軽に解約ができてしまうため、導入後のフォローを担うカスタマーサクセスが契約継続を大きく左右する存在となっています。
また、デジタル化に伴い製造業や飲食業のような一回の購入・利用で完結するビジネスでも、製品に付帯するサービスやアプリの提供、ファンコミュニティ運営などで得た顧客データから購入・利用後の顧客の状況の把握や、コミュニケーションをとることができるようになってきています。サブスクリプションではないビジネスモデルにおいても、顧客体験を向上させリピーター獲得などへ繋げるためにカスタマーサクセスに注力する企業が増えています。
サブスクリプションモデル以外の企業でカスタマーサクセスの重要度が高まっていることを示す調査もあり、カスタマーサクセスはあらゆるビジネスにおいて注目されています。
カスタマーサクセスの効果
利益の向上
カスタマーサクセスが目指すのはLTVの最大化であり、カスタマーサクセスの成功は売上・利益向上に直結します。カスタマーサクセスに取り組んだ企業のうち、50%以上がカスタマーサクセスの取り組み後に売上・利益が向上したと回答した調査もあります。
顧客ロイヤルティの向上
カスタマーサクセスの取り組みは単に顧客満足度を高めるだけでなく、企業を信頼してもらい関係を継続し続けてもらうための活動です。カスタマーサクセスの成功は、顧客ロイヤルティが高まった結果とも言えます。顧客ロイヤルティの高い顧客からは、評価の高い口コミなど、新規顧客獲得に繋がる行動も期待できるでしょう。
商品・サービスの品質向上
顧客の声を聞く機会の多いカスタマーサクセスには、商品・サービスの改善要望が集まりやすいです。カスタマーサクセスが開発部門と連携し、改善点を適切にフィードバックしたり、顧客ニーズの予測から出てきた新機能を提案したりすることで、商品・サービスの品質向上にも繋がります。
カスタマーサクセスの事例
BtoB
Sansan
法人向けのクラウド名刺管理サービスを提供するSansanの事例を紹介します。
Sansanは、創業当時からカスタマーサクセスに力を入れており、それぞれの役割と機能が整理されたカスタマーサクセス組織を作り上げています。新規ユーザーに製品を定着させること、その後の活用状況をモニタリングしながらフォローを行うことがSansanのカスタマーサクセスの主な役割です。
大規模な顧客には専任担当者が個別説明会を実施し手厚いフォローを行う、ある程度規模の小さい顧客へは電話やメールでの支援を行うなど、顧客を規模で分類してそれぞれに適切なサポートを提供しています。その結果、2020年の5月期末の解約率は0.60%と、業界内でもトップクラスの実績を出しています。
BtoC
オイシックス・ラ・大地
生鮮食品やミールキットの宅配サービス「Oisix」を提供するオイシックス・ラ・大地の事例を紹介します。
オイシックス・ラ・大地は、カスタマーサクセス実現のための商品開発に力を入れ取り組んでいます。顧客の「成功の定義」を形にするため顧客の声を聞き続け、商品の改良を重ねて開発されたのが「Oisix」のミールキットです。
「Oisix」では、初めて利用する人に3日分の夕食を提案するなど、顧客のフェーズによって体験を変えるように工夫しています。サービス初期は売上が少なかったものの、フィードバックをもとにした商品自体の改良と、顧客体験を改善し続けた結果売上が向上し、2019年には累計出荷食数が3,500万食を超えました。
カスタマーサクセスのKPI
カスタマーサクセスが目指すKPIは、営業やカスタマーサポートのKPIとは異なります。よく設定されるKPIの例を紹介します。
チャーンレート(解約率)
解約率とは、対象期間の顧客数(契約数)に対して顧客がどれだけ解約したかの割合のことで、SaaS製品を中心とするサブスクリプションサービスのKPIとして使われます。さまざまな計算方法がありますが、よく使われるのは次の2種類です。
カスタマーチャーンレート
カスタマーチャーンレートは、顧客数をベースにしたチャーンレートです。
- カスタマーチャーンレート = 期間中の解約顧客数 ÷ 期間開始時の顧客数 × 100
レベニューチャーンレート
レベニューチャーンレートは、収益をベースにしたチャーンレートです。
いくつか計算方法がありますが、特に解約などによる損失金額+アップセル・クロスセルなどによる増収額を考慮する、ネットレベニューチャーンレートが重要視されています。ネットレベニューチャーンレートの計算には、MMR(Monthly Recurring Revenue:月次経常収益)を用います。
- ネットレベニューチャーンレート = (期間内に損失したMRR – 期間内に得たMRR) ÷ 期間開始時のMRR × 100
リテンションレート(維持率)
リテンションレートは、対象期間中に顧客が継続的にサービスを利用し続けている割合を示す指標です。さまざまな計算方法がありますが、よく使われるのは次の2種類です。
カスタマーリテンションレート(CRR)
カスタマーリテンションレートは、特定の期間において、前の期間に利用していた顧客が引き続き利用している割合です。
- CRR = ((期間終了時の顧客数 - 期間中の新規獲得顧客数) ÷ 期間開始時の顧客数) × 100
ネットレベニューリテンションレート(NRR)
ネットレベニューリテンションレートは、ネットレベニューチャーンレートと同じようにMRRを用いて算出するもので、サブスクリプションサービスで重要視されています。
- NRR = (( 期間開始時のMRR + 期間内に得たMRR – 期間内に損失したMRR ) ÷ 期間開始時のMRR) × 100
アップセル率 / クロスセル率
アップセル率、クロスセル率は顧客単価向上に繋がる指標であり、カスタマーサクセスによる顧客とのコミュニケーションによって上昇・改善しやすいため、KPIとすることが多いです。
アップセル率
アップセルは、顧客が利用している商品やサービスプランでより単価の高い上位のものを提案して購入・契約してもらうことです。
- アップセル率 = 期間内にアップセルした顧客数 ÷ 期間内の顧客数
クロスセル率
クロスセルは、顧客が利用しようとしている商品・サービスに関連する別のものを提案し、一緒に購入・契約してもらうことです。
- クロスセル率 = 期間内にクロスセルした顧客数 ÷ 期間内の顧客数
NPS®(ネットプロモータースコア)
NPS®とは、顧客の満足度とともに、顧客が利用した商品やサービスを他者へ推奨する可能性などをアンケートで調査し、結果を算出した数値のことです。NPS®が高いことは顧客ロイヤルティが高い状態と言えるため、KPIとすることが多いです。
ヘルススコア
ヘルススコアとは、顧客が商品やサービスを継続利用するかどうかを測る数値です。顧客がどのような状態にあることが継続利用の条件になるかを定義したうえで算出するため、ヘルススコアを使うには、まず顧客を正しく理解する必要があります。
ヘルススコア算出には契約の更新回数やサービスのログイン・利用回数、コミュニティへの参加状況やお問合せの頻度など、さまざまな顧客データを用いるため、これらのデータが正しく管理されていることも重要です。
カスタマーサクセス成功への4つのポイント
顧客のセグメンテーション
すべての顧客へ等しくカスタマーサクセスを実施できることが理想ではありますが、現実的ではありません。限られたリソースで最大限のカスタマーサクセスを実現するため、顧客をセグメンテーションし、それぞれに最適な施策を設計することが重要です。
カスタマーサクセスでは顧客を3つの階層に分けてセグメンテーションし、それぞれに適切な施策を打つタッチモデルという手法がよく用いられます。BtoBでは主にハイタッチ・ロータッチ、BtoCでは主にテックタッチへの活動の比重が大きくなります。
ハイタッチ
自社にとって重要な顧客がハイタッチ層に分類され、収益や今後の契約・購入拡大の見込みの高さなどが選択基準となります。ハイタッチの顧客には専任担当者が付き、その顧客のみに最適化した細かなサポートや個別勉強会、状況に応じた提案書作成などを実施します。
ロータッチ
ハイタッチ層の次に重要度が高い顧客層です。一人のカスタマーサクセス担当者が複数のロータッチ顧客を担当し、セミナーなどを行います。複数顧客に対して同一の対応を取るため、ハイタッチ層よりも個別の顧客にかける工数は少なくなります。
テックタッチ
最も顧客数の多い層で、テックタッチへの活動はテクノロジーを活用した支援が中心です。 学習コンテンツやチャットボット、メルマガ配信などでのサポートを行います。BtoCでは数多く存在する顧客に対し専任の担当が付くケースは稀になるため、テックタッチへの活動が中心です。
カスタマージャーニーの作成
セグメントごとにカスタマージャーニーを作成し、フェーズに応じて適切な施策を設計しましょう。
カスタマーサクセスは商品・サービスを利用開始するタイミングから始まることが多いため、カスタマージャーニーマップの横軸のフェーズには「導入(オンボーディング)」「運用・活用(アダプション)」「継続・拡大(エクスパンション)」がよく使われます。
顧客との関係性や商品・サービスの特性に応じて、「検討」「契約」のような導入前のフェーズの顧客体験の設計も考慮すると良いでしょう。
部門間での連携
顧客とコミュニケーションを取っているのは、カスタマーサクセスの部門だけではありません。
例えばBtoBの場合、顧客は契約前に営業担当とやり取りをしています。顧客が営業に伝えた要望がカスタマーサクセスにも共有されておらず、同じ説明をくり返すようなことが起こると、その顧客が「自分の要望は重要視されていない」と感じるなど、ネガティブな体験を与える要因になってしまいます。
BtoCでは、カスタマーサクセスが顧客と直接関わる機会が少ない中でのCX向上施策として、webサイトやサービスのUI改善を行うことがあります。しかし、開発部門にカスタマーサクセスの目指している指標や改善理由を正しく理解してもらえていなければ、思うように改善を進められなくなる恐れがあります。
カスタマーサクセスには、マーケティングからカスタマーサポートまで、あらゆる部門との連携が重要です。企業全体でカスタマーサクセスが目指すものを理解し、共通認識を持ったうえでそれぞれの部門の活動を行っていくことが、顧客体験全体の向上とカスタマーサクセスの達成に繋がります。
顧客に関わるデータの収集・集約
カスタマーサクセス成功のポイントすべてに共通して重要になるのが、顧客データです。セグメントもカスタマージャーニーも、顧客データをもとに作成します。
しかし、個々の部門で使用しているCRMなどの情報がデータのサイロ化によってバラバラに管理されていると、正しい顧客像を掴めません。ヘルススコアなどのKPIを正しく設定するためにも、顧客データが一元管理されていることが求められます。
顧客データの収集・統合・管理をするCDP
顧客データを一元管理する方法の1つに、CDPの活用があります。CDPは、あらゆる顧客のデータを収集・統合し、顧客データ活用の環境を整えるマーケティングシステムです。顧客一人ひとりに合わせた体験を提供できるよう、MAツールやCRMツールなどのさまざまな外部ツールに連携できます。
顧客データが一元管理されると「誰が・いつ・何をした」という情報を部門を横断して把握することが可能になります。webサイトやアプリ上での行動など、各担当者と直接関わっていない時の行動も分析できるので、顧客インサイトやニーズの発見にも役立ちます。
CDPについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
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