スマートフォン比率が9割を超え、オンラインとオフラインの境界がなくなった現代。それに伴い、顧客とのコミュニケーションのあり方が再設計されている中で注目されているキーワードが「OMO」です。
本記事では、OMO戦略とはなにか、O2Oやオムニチャネルとの違い、OMO実現に必要なポイントについて紹介します。
OMOの概要についてすでに理解されている方は、こちらをクリックしてください。OMO戦略のポイントについて紹介している部分までスキップできます。
OMO戦略とは
OMOとは「Online Merges with Offline」の略称で、オンラインとオフラインが融合したマーケティング概念のことです。
オンラインとオフラインを別々のチャネルとして、購買行動だけを考える企業目線の考え方ではなく、徹底した「顧客目線」でオンラインとオフラインのチャネルを融合し、よりよい顧客体験を提供していくための企業戦略やマーケティング手法が「OMO戦略」です。
OMOはオンラインとオフラインの融合そのものを意味しており、それをビジネスに落とし込むための具体的な施策がOMO戦略となります。
OMOの概念は、元GoogleチャイナのCEO・李開復(リ・カイフ)氏が提唱し始めたものです。2017年12月のザ・エコノミスト誌で発表されたことで広く認識されるようになりました。李氏はOMOの事例として、中国の自転車シェアリングやタクシー配車、フードデリバリーサービスなどのビジネスモデルをあげています。
OMOに必要な4つの条件
OMOは以下の4つの条件が揃った時に発生すると、李氏は述べています。
- スマートフォンおよびモバイルネットワークの普及。いつでもどこでもデータを取得でき、常に接続できる。
- モバイル決済の浸透率の上昇。どんなに少額でも、どんな場所でも、モバイルで支払える。
- さまざまな種類の高品質なセンサーが安価で手に入るようになり、あらゆる場所に設置される。人の位置や行動といった現実世界の動きがリアルタイムでデジタル化され、活用できる。
- 自動化されたロボット、人工知能の普及。最終的には物流のプロセスも自動化できる。
これら4つの条件が揃うことで「オフラインであってもオンラインに常時接続し、その場でデータが処理されてインタラクションすることが可能になるため、オンラインとオフラインの境界は曖昧になり、融合していく」と言われています。
OMO戦略が重要視されている背景
日本でOMO戦略が重要視されている背景には、技術の進化と消費者の行動変化が大きく関係しています。
スマートフォンの普及により、消費者は疑問点や商品の比較などをSNSやインターネットで気軽に検索できるようになりました。また、ECサイトの普及と配送の高速化により、オンラインでの購買行動も日常化しています。
経済産業省の「令和4年度 電子商取引に関する市場調査報告書」によると、物販系分野のEC化率は2013年が3.85%だったのに対して2022年は9.13%と2倍以上増加しており、加えてECでの購入のうちスマートフォンからの購入は2022年には56%と半数を超えていることから、顧客の購買行動のオンライン化、とくにスマートフォンの利用が急速に進んでいることが分かります。このような状況の中では、実店舗に限定したマーケティングでは成果に繋がりにくいのが事実です。
さらに、IT技術の発展により類似製品が大量に存在するようになったため、製品の差別化が難しくなるコモディティ化が進行しています。そのため、企業は製品そのものだけでなく、手軽に購入できたり、アフターフォローが丁寧であるなどの総合的な価値提供が求められています。
以上のことから、企業はOMOにより顧客がオンライン・オフラインどのチャネルを利用してもスムーズで統一感のあるサービスを受けられるようにし、顧客体験を向上する施策に取り組むことで他社との差別化を図ることが重要視されています。
OMOとO2Oの違い
OMOの前身である概念としてO2Oが存在します。O2Oとは「Online to Offline」の略称で、インターネット上のオンラインから店舗などのオフラインへ、消費者を誘導する施策のことです。
O2OとOMOの違いを表にすると以下のとおりです。
O2O | OMO |
---|---|
オンラインとオフラインを明確に区別 | オンラインとオフラインを区別しない |
オンラインからオフラインへ送客 | オンラインとオフラインを自由に行き来 |
企業が消費者を動かす | 消費者が自分で選択する |
チャネルをまたがせる手段 | オンライン・オフラインという垣根を超えた概念 |
オンラインデータの活用 | オンライン・オフラインデータの融合・活用 |
O2Oは「企業目線」でのマーケティング施策であることに対して、OMOは「顧客目線」「UX重視」でのマーケティング概念であるというところに大きな違いがあります。
OMOとオムニチャネルの違い
OMOと関連して、オムニチャネルというキーワードもあります。オムニチャネルとは、リアルとデジタルの境界を融解し、ユーザーに購入の経路を意識させずに販売促進に繋げる戦略のことです。オムニチャネルに取り組むことで、一貫性のあるブランドとして存在を確立できるようになります。
どちらも顧客体験の向上を目指す戦略ですが、OMOはデータの統合と分析を通じて、顧客の行動やニーズをより深く理解し、パーソナライズされた体験を提供することに比重が置かれています。対して、オムニチャネルは、顧客がどのチャネルを利用しても一貫した情報やサービスを受けられることが重視されます。
業界ごとのOMO施策事例
小売業界:Amazon Go
世界中で利用されているECサイトのAmazonが運営するAmazon Goの事例を紹介します。
Amazon Goは、アメリカを中心に展開している無人スーパーです。Amazon Goを利用するには、専用アプリをダウンロードし、Amazonアカウントの登録が必要です。入店時にはアプリが発行する二次元コードを入り口のセンサーに読み取らせます。
店舗にはショッピングカートもレジもなく、商品を自分のバッグに入れれば店内のカメラセンサーがすべて読み取って計上し、退店後に自動で支払いが行われます。顧客はレジに並ぶ必要も、支払いのためにクレジットカードや現金を出す必要もありません。
このAmazon Goの購買データはAmazonサイトとも連携され、Amazonサイト内で顧客一人ひとりに合わせた商品がレコメンドされるようになっています。
日本でも東京都内を中心にAmazon Goのような無人スーパーが続々とオープンされ始めています。
アパレル業界:BEAMS
セレクトショップとして有名なBEAMSの事例を紹介します。
BEAMSはオンラインとオフライン問わず顧客データを収集し、一元管理できるようにしています。
購入履歴をもとにパーソナライズされた内容でレコメンドやメールマーケティング、ターゲティング広告をできるようにしており、顧客がさらにBEAMSの商品が気に入る仕組みを構築しています。
また、オンラインでの試着予約や、自宅に商品を取り寄せして試着できるようにしたり、実店舗で受取もできるようにしており、顧客にとって便利なコミュニケーションを提供しています。
保険・医療業界:平安保険
中国の大手保険会社の平安保険が運営するグッドドクターの事例を紹介します。
グッドドクターは、アプリを使って24時間AIのドクターに健康相談ができ、チャットや動画で医師の診断を受けられるようになっています。診察が必要になった場合にはアプリから5,000件以上の医療機関に診療の予約を取ることができ、診察後にはオンラインで診断書が患者の元へ届き、処方箋の発行も可能です。
このアプリを使って行われた健康相談は顧客情報として蓄積され、加入している保険の範囲内の病気や怪我をした場合には、平安保険よりその保険が適用可能であるかを伝えてもらえます。さらに、万歩計の機能もあり、ウォーキングでポイントを貯めて、そのポイントを健康食品や医薬品、美容用品の購入に使うこともできるのです。
このようなサービスを利用した顧客データをもとに、さらに最適な保険商品を提供することで顧客の囲い込みを図っています。
OMO戦略のポイント
顧客視点での施策検討
O2Oのようにオンラインとオフラインを切り分けた考え方や、そもそもの企業目線の考え方は時代遅れになりつつあると言えます。なぜなら、顧客にとってその企業の商品やサービスを購入するチャネルが「オンラインかオフラインか」は重要なことではないからです。
最近の顧客の買い物の仕方として、SNSの口コミで気になった商品を検索し、実店舗に行って商品をチェックしたのち、帰りの電車の中でクーポンが使えるECサイトで購入する、というようなチャネルを横断した購買パターンも増えています。顧客はその時々でもっとも便利な方法を選び、サービスを受けているだけだということが分かります。
中国はOMOの概念が社会に浸透しており、オンラインとオフラインの連携が進んでいる国の1つです。オンラインとオフラインが融合した日常が当たり前であり、もはやOMOという言葉すら使われていないほどです。対して日本は、オンラインとオフラインを別々に切り分けたり、オフラインをベースにオンラインを足していくような企業目線の考え方をしている企業がまだまだ多いです。
企業は徹底した「顧客目線」によるサービスやコミュニケーションを展開し、オンラインを前提とした施策の検討が重要です。
統合データベース構築によるデータの有効活用
OMOでは、顧客の属性・行動データや商品データ、店舗データ、売上データなど、あらゆるデータを活用してマーケティング戦略を立てる必要があります。また、これらのオンライン・オフラインデータは統合されている必要があります。
例えば、実店舗とECサイトでポイントカードが分かれている場合、会員データも分断されている状態です。その際、顧客はポイントカードをどちらも作成する必要があったり、ポイントを分散させないために実店舗でしか買い物しないといった行動をするでしょう。データが統合されていないというのは、顧客に不便やコミュニケーションの切れ目を感じさせることになります。
そのため、OMOではデータベースを統合し、購買行動におけるすべてのフェーズでパーソナライズされたベストな体験を提供できるように戦略を立てることが大切です。
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長期的な視点
OMO戦略は短期的な売上向上だけでなく、長期的な顧客関係の構築を目指すものです。単発のキャンペーンやプロモーションに頼るのではなく、持続的に顧客体験を向上させる取り組みをしていくことが重要です。
これには、顧客ロイヤルティを高めるためのプログラムや、長期的なデータ活用戦略の策定が含まれます。LTVの向上を目指し、長期的な収益性を考慮した施策を計画することが求められます。
OMO戦略の立て方
1.現状の顧客体験の整理と課題の洗い出し
OMO戦略を立てる際には、現状の顧客体験を整理し、課題を明確にすることが不可欠です。
例えば、オンラインとオフラインのタッチポイントにおいてどのようなサービス・コミュニケーションが提供されているのか、その中でどのような問題が生じているのかを洗い出します。カスタマージャーニーマップを活用したり、顧客に対してアンケートを取るのも有効です。
現状の顧客体験の整理と課題の洗い出しを行うことで、OMO施策を考えやすくなりますし、改善すべき点の優先順位付けにも役立ちます。
2.新たな顧客体験の検討
現状の課題を洗い出した後、次に取り組むべきは新たな顧客体験の設計です。
データを活用して個々の顧客に最適なコンテンツやサービスを提供したり、今来店している顧客に対してコミュニケーションを実施できないかなど、顧客が求める価値を中心に据え、利便性やエンゲージメントを高める施策を検討します。
顧客とのコミュニケーションのあり方やデータを活用した顧客とのコミュニケーション方法について、下記の無料資料で詳しく紹介していますので合わせてご活用ください。
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3.チャネル統合に必要なIT投資の検討・導入
新たな顧客体験を実現するためには、ECサイトや実店舗、モバイルアプリ、メルマガ、アンケート、問合せ管理など複数のチャネルを統合する必要があります。これには適切なIT投資が欠かせません。
データベースの構築やシステムの連携、セキュリティ対策などが不可欠ですが、OMO戦略は長期戦であるため、短期的なコストだけでなく長期的なリターンや運用コストを考慮することが大切です。
弊社EVERRISEでは、あらゆるデータ活用に関わる基盤の開発や連携、エンジニアの提供などが可能です。チャネルの統合やデータの整理などにお困りの企業さまはぜひお気軽にご相談ください。
4.施策の実施・測定
最後に、OMO戦略として検討した施策を実際に行い、その結果をデータで測定します。顧客満足度の向上やリピート購入率の改善、オンラインとオフラインの顧客行動の変化などが主な指標となります。
測定結果に基づき、施策の効果を評価し、必要に応じて調整や改善を行います。このPDCAを繰り返すことで顧客体験を継続的に改善し、OMO戦略の成功に繋げられます。
OMOの施策例
チャットボット
チャットボットとは、人工知能を組み込んだコンピューターが人間に代わって対話する仕組みのことです。
電話やLINEをはじめとした多くのチャネルに接続し、購入履歴や会員IDなどさまざまなデータと連携することが可能であり、データベースと連結したチャットボットが顧客との対話を行うことで顧客体験を向上させることができます。また、コールセンターやオペレーターなどのヒューマンリソースが大きい業務にチャットボットを搭載すれば、作業コストを大幅に削減できる可能性もあります。
今まではECサイトに設置されており、チャットボットの質問や提案にタップして応えると自分にピッタリの商品が見つかったり、問題を解決できるような使い方が多かったですが、現在では実店舗でAIスピーカーに話しかけるだけで商品の購入などを行うことが可能なサービスも登場しています。
今後は、レストランやホテル、タクシー、航空券の予約などをチャットボットにお願いするだけで可能になる、といった使い方も増えていくでしょう。
モバイルオーダー
モバイルオーダーとは、スマートフォンなどの端末から店舗に行く前に注文・決済を行えるシステムのことです。
コロナ禍で人との接触を最小限に抑えられるというメリットに加えて、経済産業省のキャッシュレス決済実態調査アンケートの調査結果でキャッシュレス決済の導入比率が72%となったことから、テイクアウトに強いファストフード店やピザ屋などの飲食店を中心に導入が進んでいます。
顧客は実店舗で商品を受け取るだけでいいため、待ち時間を大幅に短縮でき、仕事の休憩時間などの限られた時間でも飲食店を利用することができるようになります。
店舗側は、モバイルオーダーを利用することで電話応対やレジ業務を少ない人数で対応することができるようになるため業務効率化・コスト削減が可能です。また、モバイルオーダーはシステム上で会員登録を行うため、顧客データの収集が容易であり、それらを分析して新商品の開発やアプリ内のおすすめ商品の変更などに活かすこともできるでしょう。
店舗ならではの顧客体験
ECサイトやアプリなどインターネットの利用者は増えていますが、特にアパレル業界では「実際に試着をしたい」「現物の肌触りを確認したい」というニーズは多くあります。
そういった方のために、試着のためにネットで取り寄せをしておき、実店舗で試着できるサービスや、在庫を置かず試着後にその場で決済し商品は配送される仕組みの「試着専用店舗」も出てきています。
また、実店舗とオンラインの両方で指名したスタッフから商品詳細を聞いたりアドバイスを受けたりできるパーソナルスタイリングのサービスや、ミラー型のサイネージ(液晶ディスプレイ)を使いスタッフに1対1でブランドを超えたコーディネートを提案してもらえるサービスなども出てきており、顧客はECサイトではできない満足感のある買い物ができますし、店舗側は小物や着回しアイテムとして他の商品も提案しやすくなるでしょう。
ポイントの連携
ポイント制度を利用している企業は多いですが、顧客がオンラインとオフラインの両方で買い物しやすくなるようにECサイト、アプリ、実店舗のどこでもポイントが貯められ、連携されるようにしておくと良いでしょう。
また、ポイントの活用方法として、アプリの会員バーコードを読み取るスキャナを設置しておき、読み取ると来店ポイントが付与される仕組みも登場しています。これによって店舗スタッフは購入履歴を把握して接客に活かすことができたり、店舗の購入履歴はECサイトの上のレコメンド機能などに利用するといった使い方が可能になります。
OMO戦略・実現に有効なCDP
OMO戦略を立て、それを実現する際にはCDPが有効です。CDPは、あらゆる顧客のデータを収集・統合し、データを活用できる環境を整えるマーケティングシステムです。また、顧客一人ひとりに合わせた体験を提供できるよう、さまざまな外部ツールに連携することができます。
関連:CDPとは?カスタマーデータプラットフォームの機能やメリット、活用例を解説
CDPの導入によって顧客データを一元管理できるので「誰が・いつ・何をした」という情報だけでなく、顧客はなぜ購入したのか?なぜ他企業を選んだのか?という顧客インサイトを突き詰めていくことができます。そのうえで「顧客目線」のコミュニケーションを実施し、スピーディーに改善を進めていくことが可能です。
CDPの基本機能やほかのツールとの違い、導入を考える適切なタイミングなどについては、下記の無料資料で紹介しています。
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