昨今、マーケティング分野において「顧客エンゲージメント」という言葉を見かける機会が増えてきました。モノや情報があふれている現代では、消費者と良好な関係を築くことが競争力の強化に繋がるとして、この言葉が重要視されるようになっています。
顧客ロイヤルティや顧客満足度と同じイメージを持たれる方がいらっしゃるかもしれませんが、この3つには明確な違いがあります。
本記事では、顧客エンゲージメントの概要から向上に取り組む企業が増えている理由、また顧客ロイヤルティや顧客満足度の違いを説明し、顧客エンゲージメントを高めるために必要な要素と役立つシステムについて紹介します。
顧客エンゲージメントとは
顧客エンゲージメントの「engagement」は、約束・契約と翻訳されます。つまり、顧客エンゲージメントとは、顧客と企業の間で結ばれる信頼関係のことです。
「顧客エンゲージメントが高い」とは、企業と顧客が強い信頼関係で結びついている状態を指します。顧客エンゲージメントが高い場合、顧客側は商品やサービス、または企業やブランディングに対して強い愛着と信頼を持っています。
企業側も顧客に対して直接的に売上に貢献する行動に加えて、口コミなどのプロモーション行動やクロスユース、商品やサービスに関するフィードバックなど積極的に企業に関わってくれることを期待できる状態にあります。
顧客エンゲージメントを高めるためには、どちらかの一方的な関係性ではなく、フラットで双方向にコミュニケーションが行われる関係性を構築することが重要です。
顧客エンゲージメント向上に取り組む企業が増えている理由
昨今では、顧客エンゲージメントを高めることを目的として施策に取り組む企業が増えています。その理由の1つに、多くの市場においてコモディティ化が進んでいることが挙げられます。
コモディティ化とは、市場に参入する際には価値の高かった商品が、市場が活性化したことにより商品の市場価値が低下し、一般的な商品になってしまう状態のことです。
現在、モノの飽和、消費者の情報収集環境の変化、目の肥えた消費者の増加、顧客のライフスタイルや好みの多様化・複雑化などの要因から、商品・サービス自体の魅力のみでは売れにくい状態になっています。
その結果、消費者から「どの会社の製品やサービスも似たようなもの」と思われ、他社・他ブランドと差別化を図ることが難しくなってしまっています。
現代で市場価値を上げ、他社・他ブランドと明確な差をつけるためには、顧客に自社の商品やブランドを明確な理由を持って選んでもらうことが重要になります。
そこで、顧客エンゲージメントが必要になります。商品・サービスが良いことは前提となりますが、顧客エンゲージメントを高めて信頼関係を築くことで、消費者に「この企業の商品なら安心だ」「〇〇といったらこの商品だ」と自社の商品・サービスを選ぶ明確な理由が生まれ、スペックやコストを超えて手に取ってもらえるような状況を作ることができます。
コモディティ化が進む現代において、消費者に自社の商品やブランドを明確に選んでもらうためには、顧客エンゲージメントを高める施策が必要になっています。
顧客エンゲージメントを高めるメリット
LTVを高めることができる
LTV(Life Time Value)とは、日本語で顧客生涯価値といい、1人の顧客が生涯を通じて企業にもたらす価値を表したマーケティング指標です。LTVについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:LTV向上のポイント|成功事例・ビジネスモデル別の施策例を紹介
顧客エンゲージメントを高めることで、長期的に良好的な関係を築くことができます。その結果、LTVを高め、安定した収益を創出することができます。
新規顧客獲得コストの低減
新規顧客の獲得は、既存顧客を維持するのに比べて約5倍ものコストがかかるという法則「1:5の法則」が存在するほど、新規顧客の獲得にかけるコストは大きいと言われています。
エンゲージメントの高い顧客を増やすことで、優良な新規顧客を獲得できるコストを下げることができます。
顧客エンゲージメントを高めることで、顧客自らが商品・サービスの良さをクチコミで広めたり身近な人間に勧めてくれたりと、広告塔になってくれる可能性が高まります。
また、すでに信頼を寄せている顧客からの紹介は、他の新規顧客に比べてブランドから離れる傾向が低いため優良顧客となりやすいという傾向もあります。
顧客エンゲージメントと顧客満足度・顧客ロイヤルティの違い
顧客エンゲージメントとよく混同される言葉に「顧客満足度」「顧客ロイヤルティ」があります。
顧客満足度とは顧客がサービスや商品に満足しているかを表す指標のことで、顧客ロイヤルティとは顧客が企業やブランドに対して持っている愛着や信頼の度合いを表す指標のことです。
発展した市場の中で競争力を高めるためにはいずれも重要ですが、この3つの言葉には明確な違いがあります。顧客ロイヤルティ・顧客満足度について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客ロイヤルティとは?顧客ロイヤルティ向上のための5ステップ&成功事例
関わる範囲が「個々の取引」か「継続的な取引」かの違い
顧客満足度は、顧客が購入前に感じていた期待値を満たしているかどうかを測ります。
ただ、これはサービスや商品で得られる個々の体験への満足度を測るものであり、継続的な取引は範囲に含まれていません。そのため、顧客満足度が高いからといって、必ずしもその顧客と継続的な関係を構築できるとは限りません。今回は満足したが、次は別のブランドを試そうと離れてしまう可能性もあります。
一方で、顧客ロイヤルティ・顧客エンゲージメントは、継続的な取引を範囲としています。継続的な取引を行うためには、顧客との良好な関係を築くことが必要です。そのため、顧客ロイヤルティ・顧客エンゲージメントは、商品・サービスへの満足に加えて顧客との関係性が重要となってきます。
顧客との関係が「双方」か「一方的」かの違い
継続的な取引を範囲とする点では顧客ロイヤルティと顧客エンゲージメントは似ていますが、この2つは、顧客との関係性を見る視点が異なります。
顧客ロイヤルティは「顧客はこういう商品やサービスが好きなのではないか」と推し量り、それに対して顧客がどれだけ従ってくれるかという点が重要です。愛着を持っている顧客の「感情」に重きを置き、その感情を企業が評価をするという一方通行の関係性となっています。
顧客ロイヤルティの種類の中には行動ロイヤルティという言葉がありますが、これはあくまで顧客の行動から「この人はこれくらい愛着を持ってくれているだろう」と推し測ることを指しています。すでに行っている過去の行動に着目していて、未来の顧客の積極的なコミュニケーションへの期待などは含まれていません。
対して顧客エンゲージメントは、顧客が企業やブランドに信頼感を抱き、積極的に関わってくれるかという点が重要です。ブランドに積極的に関わろうとしてくれているという「行動」に重きを置き、企業と顧客の双方が対等な関係であることが前提です。
顧客エンゲージメントを強化した事例
購買機会が少ない中でも選ばれ続けるワコール
女性向け下着ブランドとして有名なアパレルブランドのワコールの事例を紹介します。
1人の顧客が下着を購入する頻度は、年に1回もしくは2年に1回ほどと決して高くありません。つまり、顧客が下着の購入を考えた時にワコールを再び選んでくれるかが重要になってきます。そのため、時間をかけて信頼関係を築いていく必要がありました。
ワコールは主に動画をフックに会員サイトで情報を発信し、コンテンツを通じて常にワコールブランドと繋がりを持ち続けてもらえるよう施策を打ちました。年に一度購入機会があるかないかの商品のセール情報や新商品情報だけでは、接点を持ち続けるのは非常に難しいです。発信する内容は下着の洗い方などのノウハウなどから、下着関連に留まらず女性が興味のある情報を出しながら接点を持てるように工夫しました。
また、ワコールの製品が実際にどう作られているのかなどを知れる工場見学イベントやオフラインのファンイベントを開催し、ワコールブランドに愛着を持ってもらえるような施策を実施しました。
ただ、「ファンを増やせた」「愛着を持ってもらえた」で終わるのではなく、実際にどれだけ売上に貢献しているのかも常に問われていました。そのため、交流後の来場者の購買行動がどう変わったのかも分析し、エンゲージメントの深化に努めました。
オウンドメディアやSNS、動画、オフラインイベントなどさまざまなチャネルを駆使して、常に顧客にワコールブランドとの接点を持ち続けて顧客エンゲージメントを高めることで、購入頻度の少ない下着という市場において、ワコールは競争力を強化しています。
顧客が求める情報発信でエンゲージメント強化した三井住友カード
三井住友フィナンシャルグループの1つであるクレジットカード会社の三井住友カードの事例を紹介します。
クレジットカード会社は消費者と信頼関係があることが前提でビジネスを進めています。企業から顧客に対してはもちろん、顧客から見ても信頼できる会社であることが必要であり、双方の関係性が良好でなければいけません。また、クレジットカードは契約してもらうだけではなく、その後たくさん利用してもらう、つまり顧客エンゲージメントを高めることが非常に重要です。
三井住友カードでは、カードを持っていると得られる特典を知らずに損している顧客が多くいたため、まずはこの特典を知ってもらい、利用頻度をあげる対策が必要でした。そのために、積極的にプロモーション活動を行ってきましたが、顧客一人ひとりに直接情報を届けることができるメールマーケティングが、企業からの一方的的な情報発信のツールになってしまっていて、顧客とコミュニケーションを図ることができていませんでした。
その問題を解決するため、企業として伝えるべき有益な情報を分かりやすく、顧客の最適なタイミングで伝えるという企業として最低限守るべき約束を果たし、顧客から積極的に見てもらえるような関係性を築くため、メールマーケティングの改善を行いました。
特に、顧客にとって有益な情報をいかに自然に伝えられるかという点にこだわって改善を進めました。具体的には「発信者の顔がわかる」「会話の中から自然と内容が伝わる」「読みやすい、親しみやすい」という3点のメリットを網羅できる会話形式のクリエイティブを発案し、情報の発信を行いました。
結果、改善後の配信に関する顧客アンケートでは、約7~8割の顧客から「また読みたい」とコメントをもらい、開封率・クリック率ともに向上することができました。「知らなかった情報を知ることができた」「読みやすくて楽しい」といった声も多数届いていました。
顧客の最適なタイミングで伝えるという企業として最低限守るべき約束を果たすことで、顧客エンゲージメントを高めています。
顧客エンゲージメントを高めるために必要なこと
ブランドイメージを崩さない
顧客エンゲージメントを高めるためには、ブランドイメージを崩さない・ぶらさないことが必要です。
顧客エンゲージメントの高い顧客は、製品・サービスだけではなく企業のブランドイメージに好感を持ってくれている場合が多いです。顧客が期待しているブランドイメージが、チャネルによってブレてしまったり、損なわれてしまうようなコミュニケーションを取ってしまうと、信頼を得られず顧客が離れてしまう可能性があります。
ブランドイメージを損なわないためには、顧客にどのようなブランドイメージを抱いてほしいかを明確にし、定期的に顧客を対象にブランドイメージ調査を行い、狙い通りにイメージされているのかギャップを確認し、改善していくことが大切です。
また、働いている従業員に対して企業の理念やビジョン、価値観を共有・理解してもらい、共感を持って行動してもらうインナーブランディングも重要です。
顧客理解を深める
顧客エンゲージメントを高めるためには、顧客がどんな情報を求め、頻度や利用チャネルを含めてどんなコミュニケーションを望んでいるのかを知ることが必要です。
オンラインのみ、一部のブランドのデータのみ、特定の事業部のみなど偏った顧客データの利用だけでは、顧客理解を深めることは難しいです。顧客に関わる全てのデータをもとに、顧客を深く理解し、まずは顧客がなにを求めているのか汲み取れる環境を作りましょう。顧客理解については、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客理解を深める2つのポイントとマーケティングにおける課題
常に顧客視点のコミュニケーションをとる
顧客エンゲージメントを高めるためには、顧客とコミュニケーションをとり続けることが必要です。
顧客との良好なコミュニケーションが長期的に続けば、信頼感も生まれやすくなります。また、顧客は信頼を寄せている企業が発信する情報であれば自ら頼ろうとしてくれ、積極的に情報を取得しに来てくれます。
企業が伝えたいことを全面的に押し付けるのではなく、顧客に合わせた情報の発信を行いましょう。また、信頼を得るためのコミュニケーションには、頻度も重要です。回数が少なくても忘れられてしまいますが、多くても飽きられてしまったり鬱陶しく思われてしまう可能性が高いです。
コミュニケーションの全体設計について、詳しくは下記の資料をご覧ください。
無料資料:データによる顧客中心のコミュニケーション再構築|これからの市場で選ばれる企業になるために
一貫した顧客体験を提供する
顧客エンゲージメントを高めるためには、顧客が期待する体験がどの接点においてもムラなく得られる環境を作ることが必要です。
ECサイトやSNSなどのオンラインチャネルで得られていた体験が、店舗やキャンペーンイベントなどのオフラインチャネルに移った途端に得られなくなってしまうなど、接触するチャネルによって得られる体験にムラがあってしまっては、顧客は安心して利用することができず、信頼の獲得にも繋がりません。
チャネル毎のメリット・デメリットを考慮しながらも一気通貫の顧客体験が提供できる環境を作りましょう。顧客体験について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客体験の向上に必要な5つの準備とCX管理に役立つマーケティングシステム
顧客理解のための顧客データ基盤「CDP」
CDP(Customer Data Platform)とは、企業の顧客に関するデータを管理し「実在する個人」に紐づけて顧客データを集め、顧客一人ひとりを理解することを可能にするプラットフォームです。CDPについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:CDPとは?カスタマーデータプラットフォームの機能やメリット、活用例を解説
オンライン・オフライン問わず、各チャネルやブランドで保有しているデータをCDPに収集・統合することができ、またCDPはBIツールやコミュニケーションツールとの連携が可能なため、統合したデータを分析や施策に生かすことができます。
顧客エンゲージメントを高めるために必要な、顧客理解や顧客起点でのコミュニケーションの実現などを妨げる要因の1つに「データのサイロ化」があります。
データがバラバラに点在している状態のまま一部のデータのみを参照して分析や施策を行ってしまうと、顧客を深く知ることができず、一部の偏った情報をもとにコミュニケーションを行ってしまう状況が続いてしまいます。
結果的に、顧客は自分をわかっていない・自分にあったコミュニケーションではないと判断し、信頼を寄せてくれず離れていってしまいます。
CDPを利用することで、データのサイロ化を解消し、顧客理解の深化や顧客にあったコミュニケーションの実現、また一貫した体験やブランドメッセージを発信する環境づくりを可能にします。
EVERRISEが提供するCDP「INTEGRAL-CORE」
弊社EVERRISEでは、顧客データをノーコードで管理できるCDP「INTEGRAL-CORE」を提供しており、これまでTVerさまやキーコーヒーさま、hoyuさまなどを含め複数社の導入実績がございます。
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