2025.03.17

N1分析®とは?ペルソナ分析との違いや成功事例、フレームワークを紹介

N1分析®とは?ペルソナ分析との違いや成功事例、フレームワークを紹介

マーケティングにおいて、顧客理解はもっとも重要な要素の1つです。顧客理解を深めるためのフレームワークにはさまざまなものがありますが、中でもN1分析®は効果的な手法として注目されています。

本記事では、N1分析®の基本概念やペルソナ分析との違い、具体的な手順やフレームワークに加え、効率的に分析を進めるために必要なマーケティングシステムについても紹介します。

N1分析®とは

N1分析®とは、西口一希氏が提唱した、主にマーケティングにおける顧客分析手法の1つです。その著書では、以下のように説明されています。

「N1分析」は、名前のある実在する1人の顧客を徹底的に理解し、その顧客が価値を見出す便益と独自性を見極め、具体的なプロダクトのアイデア、訴求するための伝達方法としてのコミュニケーションのアイデアを洞察する帰納的アプローチ。顧客自身も気づいていない、もしくは、言語化できない、潜在的なニーズ(インサイト)を洞察し、新しい価値を創造する分析です。

出典:西口一希「ビジネスの結果が変わるN1分析」

一般的な顧客分析では、顧客をセグメントごとに分類し、共通点や傾向を探る手法がよく使われます。しかし、N1分析®はそのアプローチとは異なり、たった1人の顧客に焦点を当てる分析手法です。

N1分析®の目的は、1人の優良顧客の行動や価値観を深く掘り下げて理解したうえで、その顧客と共通点を持つ層を特定することにあります。さらに、その層に向けた効果的なマーケティング戦略を構築していくことにあります。

顧客接点やニーズが多様化する現代において他社と差別化を図るには、顧客インサイトを得たうえで、潜在的なニーズにアプローチすることが不可欠です。顧客の声を直接聞くN1分析®は、インサイトを引き出すのに適した手法として注目されています。

関連:顧客インサイトとは?事例から学ぶ顧客の本音の見つけ方

N1分析®とペルソナ分析の違い

ペルソナ分析とは、自社の顧客像をより具体的に描いた架空の人物像であるペルソナを作成し、マーケティング戦略や商品開発に役立てるマーケティング手法です。

ペルソナを作成する際には、年齢や性別だけでなく居住地・学歴・趣味・価値観など、本当に実在する人物のように思える、詳細な属性や特性を設定します。マーケティング戦略・商品開発のためだけでなく、マーケティング部門のメンバーや関連部署が共通の顧客像を持ち、顧客理解を深める指標としても活用されます。

N1分析®とペルソナ分析はどちらも顧客理解を深めることを目的としていますが、アプローチが異なります。どちらも「1人」に焦点を当てますが、N1分析®は実在する顧客の行動や心理を深く分析するのに対し、ペルソナ分析は顧客データをもとに架空の顧客像を作成し、それをマーケティングに活用するという点に違いがあります。

N1分析®のメリット

顧客の潜在ニーズを発見できる

N1分析®では1人の顧客に深く焦点を当てるため、従来の多数の顧客向けのアンケートや定量分析では見えにくい購買の決め手や選択の背景といった、潜在的なニーズや行動の動機を明らかにできます。

顧客起点での意思決定ができる

N1分析®を行うことで「これは◯◯さまにとって嬉しい施策になりそうか」「◯◯さまはこの商品をどのように使うか」といった視点を持ちながら、実際の顧客の行動や心理をもとに商品開発やマーケティング施策を立案できるようになります。そのため、企業視点の押し付けではなく、顧客起点の意思決定がしやすくなります。

N1分析®のデメリット

コストがかかる

N1分析®は1対1のインタビューや顧客の観察を中心に行うため、時間やリソースが必要になり、大規模なデータ収集と比較するとコストが高くなりやすいという課題があります。

得られた知見がほかの顧客にも当てはまるとは限らない

1人の顧客の意見や行動を深く掘り下げる手法のため、得られた知見がほかの顧客にも共通するかどうかを判断するには追加の検証が必要です。

また、ほかの顧客に必ずしも同じ傾向が見られるとは限らず、場合によっては分析の見直しや追加調査が必要になることもあります。

N1分析®の事例

ミズノ

日本を代表するスポーツ用品メーカーのミズノ株式会社の事例を紹介します。

ミズノは、野球用品の主要ターゲットである高校硬式野球部員の人口が減少する中、より選ばれるブランドとなるため、さまざまなマーケティング施策を実施していました。その中で、BtoC向けのマーケティングが不足しているという課題を解決するため、リブランディング施策の立案にN1分析®を活用しました。

まず、高校生約400名に定量調査を実施し、そのデータをもとに30名を絞り込んでヒアリングを行い、N1分析®を進めました。その結果、N1分析®を通じて「高校生は店頭での購入が多い」という事実が明らかになり、店舗とwebを行き来できる仕組みを設計するなどの施策を展開し、売上向上に繋げることができました。

スマドリ

アサヒビール株式会社と株式会社電通デジタルの合併会社で、お酒を飲まない・飲めない人にも焦点を当てたマーケティング活動を行うスマドリ株式会社の事例を紹介します。

スマドリでは個人の考えや気分、シーンに合わせた多様性のある飲み方を認め合う「スマートドリンキング®」という概念を広めるため、バーの運営や商品開発を行っています。

バーで提供するノンアルコール飲料の新商品開発では、ターゲットであるお酒を飲まない・飲めない人のことを深く理解するためにヒアリングやN1分析®を重ね、顧客インサイトを追求しました。

その結果「大人だから楽しめる複雑な味わいで中味もこだわった飲み物が欲しい」という顧客インサイトを掴み、お酒が飲めない人でもウイスキーやジンの香りを楽しみ、お酒のようにさまざまな飲み物で割って味わえるシロップやカクテルを作りました。限定発売された新商品の売上は想定を上回り、熱心なファンの獲得にも繋がっています。

N1分析®のやり方・手順

N1分析®の具体的な手順として、5つのステップを紹介します。

  1. 分析の目的を明確にする
  2. 分析の対象となる顧客を選定する
  3. 顧客インタビューをする
  4. データを分析し、顧客インサイトを得る
  5. 施策の実施と効果検証

1. 分析の目的を明確にする

まず、N1分析®を行う目的や解決したい課題を明確に設定します。例えば、新製品の開発、既存サービスの改善、注力すべきセグメントの特定など、具体的なテーマを決めることが重要です。

2. 分析の対象となる顧客を選定する

N1分析®の対象顧客は、誰でも良いわけではありません。設定した目的や課題に関連性の高い顧客を選ぶ必要があります。西口氏は、アンケートや顧客データをもとに、以下の2つのフレームワークを用いて顧客を分類したうえで選定することを推奨しています。

5segs(ファイブセグス)

5segsは、顧客ピラミッドとも呼ばれる、5つのセグメントに顧客を分類するフレームワークです。以下のような分類を行います。

ロイヤル顧客 認知あり/購入頻度・高
一般顧客 認知あり/購入頻度・中〜低
離反顧客 認知あり/購入経験あり/現在購入なし
認知・未購入顧客 認知あり/購入経験なし
未認知顧客 認知なし

9segs®(ナインセグス)

9segs®は、5segsに「次回購入意向」という項目を加えたセグメントで顧客を分類するフレームワークで、顧客の実態をより深く把握できます。

「次回購入意向」は、次回以降もその商品を購入するか、あるいはそのサービスを継続するかという顧客の意向で、アンケートなどによって確認できます。具体的には以下のような分類を行います。

積極ロイヤル顧客 認知あり/購入頻度・高/次回購入意向・高
消極ロイヤル顧客 認知あり/購入頻度・高/次回購入意向・低
積極一般顧客 認知あり/購入頻度・中〜低/次回購入意向・高
消極一般顧客 認知あり/購入頻度・中〜低/次回購入意向・低
積極離反顧客 認知あり/購入経験あり/現在購入なし/次回購入意向・高
消極離反顧客 認知あり/購入経験あり/現在購入なし/次回購入意向・低
積極認知・未購入顧客 認知あり/購入経験なし/次回購入意向・高
消極認知・未購入顧客 認知あり/購入経験なし/次回購入意向・低
未認知顧客 認知なし

顧客へのアンケートの進め方やポイントについて、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。そのまま使える設問例も紹介しています。

無料資料:BtoC向け|顧客満足度と市場調査のためのアンケート作成・分析・施策への活用

BtoC向け|顧客満足度と市場調査のためのアンケート作成・分析・施策への活用

3. 顧客インタビューをする

セグメントからさらに顧客を選定し、1対1のインタビューを行います。インタビューでは、目的に応じて以下のようなことを質問します。

  • 商品・サービスを知ったきっかけや第一印象
  • 購入・利用の動機や背景
  • 商品・サービスの利用状況
  • 感じている課題や不満、満足している点

4. データを分析し、顧客インサイトを得る

インタビューの結果と顧客データを整理・分析し、顧客の行動や心理の背景にある本質的なニーズや欲求を明らかにします。

関連:ユーザー分析・顧客分析の重要性と6つの手法。分析データの活かし方

5. 施策の実施と効果検証

得られた顧客インサイトをもとに仮説を立て、その仮説を検証するためのさらなる分析や施策を実行します。N1分析®の対象顧客と類似する特徴を持つ顧客へのアプローチが有効と考えられる場合は、マーケティング施策を通じて同じ層の新規顧客の獲得や、既存顧客の顧客体験向上に繋げていきます。

関連:顧客体験(CX)向上の成功事例4選!効果的な施策と必要なステップとは?

PDCAサイクルを回しながら分析・施策の改善を進めることで、マーケティング施策の精度を高めていきましょう。

N1分析®を行う際の注意点

たった1人の意見を全体の代表としない

N1分析®は「個々の顧客の深掘り」が目的であり、統計的な分析とは異なります。1人の顧客の声を全体の傾向と誤認しないよう注意し、ほかのデータとも照らし合わせて検証することが重要です。

先入観にとらわれず、客観的に分析する

選定した顧客が極端なケースに当てはまらないか注意が必要です。分析対象を1人だけに限定せず複数人にすることで、より多様な視点を取り入れ、特定のケースに偏らず適切な判断ができるようになります。

また、インタビュアーの質問の仕方や分析者の先入観が結果に影響を与えないよう、常に客観的な視点を持ちましょう。

インタビュー結果と実際のデータを照合する

インタビューで得られた情報が、実際の行動や過去のデータと矛盾していないかを検証することも重要です。例えば、顧客インタビューでは「価格が理由で購入しなかった」と話していたものの、実際には別の商品を高値で購入しているなどの行動が見られた場合、別の要因がある可能性があります。

N1分析®の障壁となるデータのサイロ化

N1分析®を行うには、適切な顧客の選定やインタビューで得られた情報と実際の行動データを照合するために、顧客の購買情報や行動データの取得と統合が必要です。

しかし、多くの企業ではデータのサイロ化によって顧客データが分散しているため、N1分析®のような取り組みに時間やコストがかかり、スムーズに進まない要因の1つになっています。

data silos

データのサイロ化とは、組織の縦割り構造や技術的な制約によって、データがシステムや部門ごとに分断されてしまう状態を指します。

N1分析®を効率的に進めるためには、データのサイロ化を解消し、顧客データを統合・管理することが重要です。

顧客データの統合について、詳しくは下記の無料動画をご覧ください。データ統合で変わることについて、ビジネスモデルごとに紹介しています。

無料動画:データ統合で何が変わる?顧客体験を高める顧客データ統合の基礎

データ統合で何が変わる?顧客体験を高める顧客データ統合の基礎

セグメント作成や顧客の行動分析に有効なCDP

N1分析®に必要なデータの管理・活用を効率化するために有効なデータ基盤に、CDP(カスタマー データ プラットフォーム:Customer Data Platform)があります。

integralcore integration

CDPは、企業が保有する顧客データを収集・統合・管理し、「実在する個人」の顧客プロファイルを作成することで、顧客分析やマーケティング施策の実行を支えるプラットフォームです。

関連:CDPとは?機能や部門・業界別の活用例、今後の動向などをまとめて解説

CDPはほかのツール・システムと連携してデータを扱えるため、データのサイロ化を解消することにも役立ちます。異なる環境に保管されているさまざまな顧客接点のデータを集約し、複雑な条件でのセグメント作成も可能です。そのため、N1分析®に必要なセグメント作成を柔軟に行うことができます。

さらに、店舗・ECサイトの購買データ、オフラインデータなどを個人単位で統合・管理できるため、N1分析®の対象顧客をより深く理解することに役立ちます。

CDPで作成したセグメントはMAツールなどのマーケティング施策実行ツールとも連携可能です。CDPは、N1分析®の一連の流れの中で、必要な顧客データを統合・管理するのに非常に適したプラットフォームと言えます。

CDPでできるN1分析®やBIツールとの連携による顧客分析について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。

無料資料:CDPによる顧客理解と分析|BI連携でひろがるデータの可視化

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