テーマパーク業界では、娯楽やレジャーの多様化による新しいサービスの開発や既存顧客のリピート率の低迷、運営コストの上昇などの課題が大きくなっています。
インバウンド市場も盛り上がりを見せており、テーマパーク業界における課題に取り組むべきタイミングであるとも言えるでしょう。
本記事では、テーマパーク業界の3つの課題と解決策、CDPによるデータ分析・活用について紹介します。
テーマパーク業界でデータ分析・活用の重要性が増している背景
近年、大型ショッピングモールやスマホゲームなどの娯楽やレジャーが多様化しており、テーマパーク業界にとってライバルが増加している状況と言えます。
そのような競争が激しい市場感において、支払う金額と顧客満足度のバランスが取れていないと顧客に来場してもらったり、リピートに繋げることは難しくなっています。
顧客が求めるのは、単なるサービスやアトラクションのおもしろさだけでなく、訪れた際に得られる全体的な体験の質です。それに応えるためには、データ分析を通じて顧客のニーズと行動を正確に理解し、分析に基づいたサービスを提供することが不可欠です。
データは、顧客体験の質を高めるための改善点を客観的に示し、オンラインでの顧客体験を含むあらゆる施策の最適化に役立ちます。本記事では、とくに顧客体験に関わる部分のデータ分析・活用に特化して解説していきます。
テーマパーク業界における3つの課題
テーマパーク業界における主な課題は3つあります。
- 新しいアトラクションやサービスの提供
- 既存顧客のリピート率の低迷
- 運営コストの上昇
新しいアトラクションやサービスの提供
娯楽やレジャーの多様化を始め、顧客は以前訪れた際の経験やほかのテーマパークで得た体験をもとに、それと同等以上の体験を期待しているため、テーマパークは常に顧客のニーズに沿った新しいアトラクションやサービスを提供していく必要があります。
とくに昨今は、コト消費やトキ消費といった「そのサービス」や「その日・その場所・その時間」でしか体験できないような消費体験の需要が高まっています。テーマパーク業界におけるコト消費とトキ消費の具体例は以下のとおりです。
- コト消費
- アトラクションの体験:スリル満点のジェットコースターや幻想的なテーマエリアでの体験
- キャラクターとのふれあい:人気キャラクターとのグリーティングや写真撮影
- トキ消費
- 夜間イベントやショー:1日の終わりを飾る特別なパフォーマンスや花火大会
- 時間限定のキャンペーン:限定時間内でしか楽しめない特別なアトラクションやグッズ販売
- 季節ごと・⚪️周年イベント:ハロウィンの時期しかできない仮装イベントや期間限定のグッズ販売
テーマパークにおけるコト消費とトキ消費は、互いに補完し合う関係にあります。例えば、来場者が特定の時間帯にしか体験できないイベントに参加することで、その時間が特別な思い出となり、コト消費の一部となります。また、テーマパーク側は、来場者が時間を有効に使いながら豊かな体験を得られるようにサービスを提供することで、顧客満足度を高めることができます。
新しいサービス、とくにアトラクションの開発と導入は、多大なコストとリソースを要求されるプロジェクトですが、メディアやSNSで話題になりやすくマーケティング効果も高いです。新しいサービスを考えていくことは小規模なテーマパークから大手テーマパークまで規模にかかわらず共通の課題と言えるでしょう。
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既存顧客のリピート率の低迷
テーマパークは多額の投資を必要とするビジネスモデルであるため、一度訪れた顧客を再度来場させることは経済的にも非常に重要です。また、リピート顧客は新規顧客を獲得するよりもコストが低く、長期的な利益に寄与するため、再訪を促すことは収益に大きく影響します。
しかし、顧客は一度体験したアトラクションやサービスに対して新鮮さを感じなくなると、再訪の動機が減少してしまうことがほとんどでしょう。時間とともにアトラクションの魅力が薄れると同時に、顧客が次回訪問時に新たな価値を感じられる要素が不足している場合が多いです。
加えて、顧客のデータを活用して個別のコミュケーションを実施できていないために、既存顧客のリピート率を向上できていないことも多いです。テーマパークが顧客との関係構築が十分にできていない場合、顧客エンゲージメントが低下し、リピートに繋がりません。
既存顧客に対して、効率良くリピート促進ができていない主な原因は、入場ゲートのスキャナー、アトラクションの利用履歴、飲食店の売上データ、顧客アンケート、モバイルアプリの使用データなどがバラバラになる「データのサイロ化」が起きており、適切な分析や施策が行えていないことが挙げられます。
データのサイロ化は、システムとしてデータが分断されている場合も、部門ごとにシステムを持っていることでデータが分断されている場合もあります。
テーマパークは新しいサービスを作るのはもちろんのこと、単に一斉配信のメールなどによる情報提供ではなく、顧客の状態に合ったコンテンツを提供できなければ、効率よくリピートに繋げることは難しいでしょう。
運営コストの上昇
テーマパークでは、アトラクションの運行や施設の照明、冷暖房などで大量のエネルギーを消費しますが、昨今はエネルギー価格が高騰しています。
また、人件費や物価も上がっており、運営コストが押し上げられ、テーマパークの入園料の値上げにも繋がっているところも多いかと思います。
入園料の値上げは、テーマパークの利用回数を減らしたり、施設内での食事を節約したりするなど、集客に一定の影響を及ぼす可能性があります。加えて、コストの肥大化による入園料の値上げだとしても、顧客としてはそのような事情は分からないため、入園料の値上げに伴い、さらに良質な顧客体験への期待が膨らんでいるケースが多いです。
2020年 オリコン顧客満足度®調査によると、顧客満足度は「チケットの買いやすさ」「スタッフの対応」「パーク内の快適さ」「空間演出」「フード・ドリンクの充実さ」「ショップの充実さ」 「利用のしやすさ」 などで大きく左右されます。
そのため、テーマパークは、入園料などの金額とこれらのサービスのバランスが取れている必要があり、なるべく運営コストを削減できるような組織体制を作っていくことが不可欠だと考えられます。
テーマパーク業界における課題の解決策
新しいアトラクションやサービスの提供に対する施策
新しいアトラクションやサービスを作る際には、ただ新しいものを作るだけでなく、訪れる人々がどのように感じるか、どのような経験をするかを考慮する必要があります。
新しいアトラクションやサービスが顧客に受け入れられるかどうかを事前に完全に把握することはできませんが、既存のテーマやブランドイメージとの整合性を保ちながら、市場のニーズを正確に把握することで投資が無駄になるリスクを減らすことができます。
ニーズの把握には、顧客データの分析や顧客に対するアンケートが効果的です。
東京ディズニーリゾートでは、パーク内での体験を自由にコメントできる来場者アンケートを行っています。例えば、混雑感の緩和に向けた取り組みや、暑さ・寒さの対策など「快適な環境づくり」に向けた整備など、アンケート回答から実施されたものも多くあるそうです。
このことから、webでチケット購入した顧客に対してメールなどで来場後アンケートを実施し、顧客からの直接的な声を取得する、などの施策の実施などが考えられます。さらに顧客データとアンケートデータを紐づければ、年齢層や家族構成などから需要のあるサービスを可視化しやすくなります。
リピーターを増やす施策
リピーターを増やすためには顧客一人ひとりの興味や過去の行動を深く理解し、メルマガやSNS、メンバーシッププログラムなどを通じて、顧客とのコミュニケーションを強化する必要があります。まずは全社的にデータを統合し、サイロ化を解決することが出発点となります。
webチケット購入など来園前の段階で顧客データを取得し、ほかのECサイトやMAツールなどとデータ統合を行ったうえでできるコミュニケーションを紹介します。
例えば、テーマパークの利用動向調査によると、カップルでは「通常料金」、ファミリーでは「割引チケット・クーポン」とテーマパークに誰と行くかでチケットの購入形式が異なることが調査で分かっています。この調査結果から、カップルにはカップルで楽しめるキャンペーン、ファミリーにはお得な情報をメールでお知らせするなどが施策として考えられます。
ほかにも、イルミネーションの時期に訪れた顧客に対して、新しいイベントの情報を提供することで、その顧客の再訪意欲を刺激することもできるでしょう。これらのアプローチにより、顧客は自分の好みや興味が反映されていると感じ、テーマパークに対する愛着や満足感を高めることができます。
また、ホテルやゴルフ場、ECサイトなどを運営している企業の場合は、テーマパークに閉じず、全体でのコミュニケーションを設計するのが効果的です。以前ゴルフをプレーしに来た男性に対して、テーマパークとホテルの予約のセット割を用意してお知らせするなどがデータ統合で可能になります。
コミュニケーションの全体設計の方法については、下記の資料をご覧ください。
無料資料:データによる顧客中心のコミュニケーション再構築|これからの市場で選ばれる企業になるために
運営コストの上昇に対する解決
データを活用してテーマパークの運営効率を向上させることは重要です。運営コストの削減としては、以下のような取り組みが効果的です。
- 顧客の来園パターンや滞在時間、好みのアトラクションなどのデータを分析することで、ピークタイムやオフピークタイムを正確に予測でき、エネルギー消費が高いアトラクションの運行スケジュールを最適化したり、混雑に合わせてスタッフを適切に配置したり、来場者数と食品の消費パターンを分析して無駄なく効率的な在庫管理を行う
- 特定の顧客セグメントに対してオフピーク時のプロモーションを実施することで、来園者を時間帯別に誘導し、施設全体のエネルギー利用を均一化することにより、エネルギー消費のピークを抑える
さらに、入園料の値上げに対して顧客満足度を向上させるための取り組みとして以下のようなものがあります。
- 乗り物の待ち時間をリアルタイムに顧客に共有する
- 顧客が効率よく1日を楽しめるように、グッズの事前購入・受け取りができるようにする
- パーク内でモバイルオーダーやレストランの席予約をできるようにする
しかし、上記の取り組みは、チケット販売・アトラクション・飲食店・宿泊施設などテーマパーク内の各部門・システムで収集されたデータがすべて1つに統合され、かつリアルタイムでのデータ活用が行えなければいずれも実現することは難しいです。
限られたリソースの中で最大限の効果を発揮するために、データインフラの整備やデータ分析が行えるようにしていくことが大切です。
正しいデータの持ち方・使い方については、下記の資料をご覧ください。
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テーマパーク業界のデータ分析・活用事例
よみうりランド
2024年3月に開園60周年を迎えたテーマパークである、よみうりランドのデータ分析・活用事例を紹介します。
開園から長い歴史の中、よみうりランドは顧客データが十分に取れていなかったという大きな課題意識がありました。
リピーターが年に何回、どこから来るかを正確に把握できておらず、また、以前から顧客とコミュニケーションを取るためにメルマガで来園を促すメッセージはあったものの、電子チケットの発行などはできず顧客のロイヤルティに応じたメッセージの出し分けなどはできていなかったそうです。それらを解決するために、データ収集・活用のインフラを整え、会員プログラム「よみランCLUB」を新設しました。
よみランCLUBは、チケットを割引価格で購入でき、園内飲食店の利用やグッズの購入などでポイントが貯まり、ポイント数によってステータスが分けられ、ステータスに応じてチケットや遊園地内でのグッズの購入金額の数%をポイントとして還元したり、来場やアンケート回答でポイントを付与したりするロイヤルティプログラムです。よみうりランド以外の系列施設である宿泊施設やスパリゾート、ゴルフ練習場などでも利用できます。
これにより、今まで取得できていなかった顧客データを取得でき、そのデータをもとにパーソナライズしたコミュニケーションや新たな施策を実現できるようになりました。
ハウステンボス
ヨーロッパの街並みを忠実に再現したテーマパークである、ハウステンボスのデータ分析・活用事例を紹介します。
ハウステンボスは日本で一番広いテーマパークであり、アトラクションのほかにレストランや劇場、期間限定イベント会場、ホテル、温泉施設、クルーズ、ウエディング会場などが併設されています。しかし、ハウステンボス開業時はホテル事業、レストラン事業、物販事業などはそれぞれ別会社で運営していたためシステムがバラバラの状態でした。
これを解決するため、顧客情報を一元管理し、購入履歴や会員ポイントなどを共有できるよう基幹システムを刷新しました。これにより、顧客は宿泊のチェックアウト時にすべての精算を済ませられるようになったり、パークチケット発券と宿泊チェックインカウンター、荷物預け入れのための列に都度並ぶなどの手間がなくなりました。
また、広いテーマパークであるがゆえに場内移動に時間がかかること、敷地が広すぎて分からないことも顧客体験として問題だったため、限られた時間の中で施設やアトラクションを楽しんでもらえるようにパーク内の最新情報や位置情報をすぐに確認できる「ハウステンボス公式アプリ」もリリースしました。
ほかにもさまざまなマーケティング戦略に取り組んだ結果、開園時から18年間赤字を続けていましたが、1年で黒字化に成功することができました。
テーマパーク業界がアプローチを成功させるCDPでのデータ分析・活用
顧客データを一元管理すること、他部署や他事業部と連携するためには、インフラを整える必要があります。そのインフラとして、CDP(Customer Data Platform)が1つの解決策となります。
CDPとは「カスタマーデータプラットフォーム」の略称で、企業の顧客に関するデータを管理し、顧客一人ひとりを理解するための基盤のことです。
関連:CDPとは?顧客データ活用に特化したCDPの機能とメリット、事例などの基礎知識まとめ
CDPの機能は多岐にわたりますが、ここからはテーマパーク業界でCDPを活用した際にできるようになること・メリットについて、以下の2点を紹介します。
- 顧客情報の一元管理
- 顧客の状態に合わせたコミュニケーション
顧客情報の一元管理
CDPは、名前やメールアドレスなどの個人情報、webサイトやアプリでの行動履歴、POSレジの購入履歴、アンケート情報など、顧客に関するすべてのデータを収集し「実在する個人」にデータを紐づけて一元管理できます。
多くの企業では、webサイトやSNS、メルマガ、アプリなどそれぞれのチャネルごとに顧客管理システムを持っており、1人の顧客に対して別々の顧客IDを割り振り、別人として管理されているケースが多々あります。これが、先述した「データのサイロ化」が起きている状態です。
データは顧客単位で紐づけられていなければ、実際は同じ人物が行った行動でありながらもデータ上では別の人物として認識し、顧客を正しく理解できなかったり誤ったコミュニケーションを行ってしまったりという可能性があります。
テーマパークでは、よく以下のようなツール・システムや自社構築のプラットフォームが導入・利用されていますが、データのサイロ化を解決するために、CDPはこれらのツール・システムと連携し、顧客データを1つに統合することが可能です。
ツール名 | webアクセス解析ツール | CRM / SFAツール | EC / 購買データ管理ツール | ID-POS |
---|---|---|---|---|
ツールの例 |
・Adobe Analytics ・Google Analytics ・Ptengine など |
・Salesforce ・Synergy! ・HubSpot CRM ・eセールスマネージャー ・F-RevoCRM ・kintone ・Zoho CRM など |
・EC being ・Shopify ・EC-CUBE ・ecforce ・EPR(マクロミル) ・W2 Unified など |
・スマレジ ・airレジ ・ORANGE POS ・POS+retail ・shopping Scan(True Data) ・ユビレジ など |
CDPを導入することで、顧客データが一元化され、1人の顧客として分析できるようになり、オンラインとオフラインを融合させた施策の実施も可能になります。
顧客とのコミュニケーション
CDPは顧客データを一元管理できるうえに、BIツールやMAツール、プッシュ通知、web接客ツールなどの分析・施策を行うツールに連携でき、分析した結果をもとに顧客に対して適切にアプローチしていくことが可能です。
例えば、CDPは以下のようなツール・システムと連携することが可能です。
ツール名 | BI / 分析ツール | MA / メール配信 / その他施策 |
---|---|---|
ツールの例 |
・Tableau ・Looker Studio(旧Google Data Portal) ・Yellowfin ・Amazon QuickSight ・DOMO ・Redash など |
・Marketo ・Marketing Cloud Account Engagement(旧 Pardot) ・HubSpot ・Synergy! ・Karte ・DLPO ・LINE ・Repro ・WEBCAS email など |
CDPを導入し、セグメントを分けて顧客に対して適切なコミュニケーションを図ることで、売り上げアップや機会損失を最小限に抑えられます。
そのほか、CDPの基本的な機能やほかのツールとの違い、各部門でのユースケースと効果などは、下記の無料資料で詳しく紹介しています。
EVERRISEが提供するCDP「INTEGRAL-CORE」
弊社EVERRISEでは、顧客データをノーコードで管理できるCDP「INTEGRAL-CORE」を提供しており、これまでTVerさまやキーコーヒーさま、hoyuさまなどを含め複数社の導入実績がございます。
- CDP「INTEGRAL-CORE」の特長
- 顧客に関するあらゆるデータを収集・統合
- ノーコードでデータ集計やセグメント作成
- 外部連携機能でBIツール・MA・CRMなどへデータを渡し、マーケティング施策へ活用可能
- 自社開発システムならではの総合支援体制
- 専用環境での提供も可能な国産CDP
CDP「INTEGRAL-CORE」の機能や特長、ユースケース、実際の画面については、以下の無料資料で詳しく紹介しています。データ活用にお困りの際はぜひお気軽にご相談ください!