マーケティング活動において、もっとも重要なことの1つに顧客理解があります。顧客を分析し深く知ることができれば、ニーズやインサイトを導き出し施策の改善や新たなアプローチの発案に繋げることも可能です。顧客分析を行ううえで顧客プロファイルの構築が必要です。
本記事では、顧客プロファイルを構成する要素や、有効活用のための管理方法について紹介します。
顧客プロファイルとは
マーケティングにおける「顧客プロファイル」とは、顧客に関するさまざまな情報が羅列されたデータ群のことです。顧客ごとの氏名やメールアドレス、性別や年齢などの基本的な情報や、購買履歴、webの行動履歴などで構成されます。
「プロファイル」は、自己紹介の際によく使われる「プロフィール」と同じ意味を持つ言葉ですが、ITの分野では仕様や設定情報がまとまったものをプロファイルと呼ぶこともあります。
顧客プロファイルは、顧客の情報を蓄積し、顧客をより深く知るため、またその作業をより効率化するために作成されます。顧客プロファイルとしての理想の姿は、企業内の事業部やシステム・ツールによって異なる顧客として管理しているデータを収集し、1人の顧客として統合・管理できている状態です。
顧客プロファイルは通常、氏名など個人を特定できる状態で作成されます。しかし、webやアプリでCookieを用いて得た行動情報などから「個人は特定できていないがIDベースで特定ができている顧客」の情報を匿名顧客として取り扱う場合があります。匿名状態の時の行動を顧客化した際に利用できることも多く、匿名状態でも顧客を分析できるように、顧客プロファイルとして管理するのがおすすめです。
BtoBとBtoCの顧客プロファイル
顧客プロファイルについては、BtoBとBtoCで考え方や収集する項目に違いがあります。本記事では、BtoC企業向けの顧客プロファイルを中心に説明していきます。
BtoBの顧客プロファイル
BtoBの顧客プロファイルは、ターゲットが企業や組織であるため、売上高や従業員数などの企業規模・業種・ビジネスモデルなどの属性が重要になります。
また、BtoBでは複数の担当者が意思決定に関わることが多いため、経営層や事業部長など各ステークホルダーの役職・権限・購入に至るモチベーションを把握する必要があります。
BtoBにおける顧客プロファイルの具体的な項目例
- 企業情報(業種・従業員数・売上高・所在地など)
- ビジネスモデルや顧客ターゲット
- 課題・ニーズ(経営課題・業務課題・技術課題など)
- 意思決定プロセス(担当者の役職や権限・予算規模・意思決定にかかわる人数など)
- 取引実績(購入履歴・契約プラン・導入済みソリューション・導入効果など)
BtoCの顧客プロファイル
BtoCの顧客プロファイルは、顧客個人の年齢や性別、居住地、興味関心、購買履歴、web行動履歴などのパーソナルなデータをメインに扱います。購買において感情的・感覚的な要因が影響することが多いため、顧客インサイトを重視します。
BtoCにおける顧客プロファイルの具体的な項目例
- 基本情報(年齢・性別・住所・職業・世帯構成など)
- ライフステージ(独身・既婚・子育て)
- 興味関心
- チャネル別の行動履歴
- 価値観・購買動機(コスト重視・ブランド志向・機能重視など)
- ECや実店舗などの購入履歴・購入頻度
顧客プロファイルを作成するメリット
顧客理解を深めることができる
顧客プロファイルを作成することによって、顧客のニーズや購買行動の特徴をより深く把握できるようになります。年齢や職業、興味関心などの基本情報に加えて、購入履歴やweb上での行動履歴もプロファイリングすることで、どのような要因によって購買行動が左右されるのかを明確に捉えやすくなります。
関連:顧客理解を深めるポイント|マーケティングの成功に必要なデータ分析
施策や商品開発を効率化できる
顧客プロファイルを作成すると、過去の購買データや行動履歴を参照して、顧客一人ひとりの興味関心や利用状況に応じたコミュニケーションを行うことができます。顧客が必要としている情報やサポートを適切なタイミング・チャネルで提供しやすくなるため、このような体験を通じて顧客満足度やロイヤルティの向上が期待できます。
さらに、顧客が何を求めているのかが分かるため、新商品や新サービスを開発する際に具体的な方向性を考えやすくなったり、既存商品や既存サービスの改善点をより精緻に把握して継続的にアップデートすることが可能です。
組織全体の生産性を向上できる
顧客情報が個別の部署や担当者だけで管理されている状態では、顧客への対応や施策の内容にばらつきが生じる場合があります。
顧客プロファイルを組織全体で一元管理すると、マーケティング・営業・カスタマーサポート部門などで顧客に対する施策やサポートの方向性を揃えることができるうえ、部門間の連携がスムーズになり、業務の重複や無駄なやり取りを減らすことも可能になります。
顧客プロファイルの活用方法
分析
顧客理解を深めるためには顧客分析が欠かせません。よく用いられるのは下記の4つの分析手法です。
分析手法 | 内容 |
---|---|
行動トレンド分析 | 顧客の過去の購買傾向からシーズンごとの購買率を導き出す分析手法 |
セグメンテーション分析(クラスタ分析) | 既存顧客の共通項を洗い出し、自社のターゲット像の指標を作成するための分析手法 |
RFM分析 | 顧客のデータを分析することで「優良顧客」「休眠顧客」「新規顧客」などにグループ化する分析手法。短期的な売上向上に効果的 |
デシル分析 | 定期間の売上金額で優良顧客を簡易的に割り出せる分析手法 |
これらの分析手法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。分析を行う際の注意点や有効なデータ基盤も紹介しています。
関連:ユーザー分析・顧客分析の重要性と6つの手法。分析データの活かし方
マーケティング施策への利用
コミュニケーションの最適化
顧客プロファイルで顧客の最新の状況を把握できていれば、一人ひとりに合わせたコミュニケーションを取ることも可能です。
例えば、顧客の属性や行動履歴から顧客が興味関心を持っている情報や製品を予測し、新製品情報やキャンペーン情報を送信することが可能です。逆に顧客自身が得たい情報を選択し、それが顧客プロファイルに反映されることで、顧客にとって不要なコミュニケーションを除外することもできます。
また、コミュニケーションや購買履歴を利用して、同じ内容のメールや購入済み商品の広告などが何度も送られるといった、過剰なコミュニケーションを防ぐこともできます。
特に行動履歴や購買履歴は、より上位の商品購入を促すアップセルや、関連商品などをレコメンドし追加購入を促すクロスセルに役立ちます。顧客のニーズが多様化し、求めるコミュニケーションも大きく変化してきている現代では、顧客データをどのように活用するかが重要になっています。
データを使った顧客中心のコミュニケーション再構築の手順や注意点について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
無料資料:データによる顧客中心のコミュニケーション再構築|これからの市場で選ばれる企業になるために
施策の適切な評価
顧客の情報がツールやシステム間で分断されていると、広告やメールマガジンなどの個々の施策を適切に評価できないことがあります。
例えば、ECサイトだけで見ると広告費用対効果の低い顧客が、店舗の購買履歴も合わせて考えると評価が異なった、という場合があります。
企業内の顧客の情報が顧客プロファイルに集約されることで、マーケティング施策の正しい評価に繋がります。
システムが部署ごとに分断されデータが連携されていない状態を「データのサイロ化」と呼びます。データのサイロ化が起きている状態では、実施したマーケティング施策を適切に評価することが難しいです。データのサイロ化が発生する2つの原因と解決する方法について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:データのサイロ化とは?2つの原因と解決策、サイロ化を解消するツールを紹介
顧客プロファイルに含まれるべき項目・データ
顧客プロファイルには顧客に関するあらゆる情報を格納できますが、ここではマーケティングへの活用にあたって代表的なデータの種類について紹介します。
ID
顧客プロファイルを作成するには、各種ツール・システムのデータを統合するためのIDが必要です。
SSO(シングルサインオン)などを導入して共通のIDが付与されている場合はそれを統合IDとして利用しますが、共通のIDがない場合はメールアドレスをもとに統合することが多いです。
属性データ
属性とはその人が持つ性質や特徴のことで、個人情報データやデモグラフィックデータ、サイコグラフィックデータなどがあります。
行動データ
行動データは、顧客のweb閲覧履歴や購買履歴、VOC(Voice Of Customer:顧客の声)と呼ばれる顧客からの意見や要望など、さまざまな行動履歴のデータです。
これらの顧客データは、顧客プロファイルの作成に必要ですが、顧客データの収集に苦労する企業は少なくありません。顧客データの種類や収集方法、収集に役立つツールについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客データ収集の方法と有効なツール4選|収集すべき2種類のデータとは
顧客プロファイルの作成方法と注意点
1. 顧客プロファイルの項目の決定
顧客プロファイルに含める項目が決まれば、必要なデータを収集し蓄積することで顧客プロファイルの作成が可能になります。
ここで注意しなければならないのは、顧客プロファイル内のデータの中身は動的に変化するものであり、定期的に更新が必要になるという点です。特に行動データは日々変化し、増え続けます。顧客プロファイル内のデータの最新性を保つためにも、頻繁に更新し続ける必要があります。
項目数が増えるほど管理コストが膨らむことになるため、データの利用目的を明確にしたうえで項目を決定しましょう。
2. 顧客プロファイルを構築するツールの選定
顧客プロファイルを構築し管理するためのツールはさまざまあります。項目や顧客数が少なければ、紙やExcelでも顧客プロファイルを作成することが可能です。
しかし、作成時の注意点にもあるように、顧客ファイルの中身は変化することが想定されます。
管理の点で紙や個人のExcelファイルを用いるのは現実的でなく、顧客情報の管理に適したツールや専用のデータベースに顧客プロファイルを構築するべきです。それぞれのデータの収集元となる他ツールやシステムと連携が可能かどうかも重要になります。
3. データの反映と統合
項目とツールが揃えば、実際のデータを反映させることで顧客プロファイルができます。
顧客プロファイルのデータの収集元は、webトラッキングの行動情報やCRMの顧客情報やPOSシステムやECカートシステムの購買情報など多岐にわたり、バラバラに管理されていることがほとんどです。
異なるシステムやデータベースのデータは、それぞれの顧客に照らし合わせて統合する必要があります。統合のための作業にはデータクレンジングや名寄せなど、さまざまなハードルがあります。データクレンジングや名寄せの概要から進め方について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:データクレンジングと名寄せとは?正確な顧客データ管理のやり方と効果的なツール
また、顧客データ統合のやり方について、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客データ統合の失敗ケースと最適な進め方|解決策となるデータ基盤のCDP
顧客プロファイルを有効活用するための管理方法
顧客プロファイルは一度作成して終わりではなく情報の更新や追加が発生するため、管理が重要になります。そのため、作成方法でも述べたように顧客プロファイルの管理に適したツールの導入が望ましいと言えます。
これらのツールにはデータの収集・統合と、さらに施策実行を担うツールなどへの連携機能があるため、効率よく顧客プロファイルを管理しながらデータを活用できます。
また、ツール導入するだけではなくデータの運用ルールを策定しておくことも重要です。5W1H(この場合は、いつ・誰が・誰に・何を・どこへ・どのように)でデータの流れを整理し、ルールを決めておきましょう。
ツールにデータを自動収集する機能があっても、元データの更新自体は人が行わなければならないケースもあります。特に部署をまたいだデータのやり取りを行う場合は関係者との認識合わせが大切です。
意味のあるデータの使い方やデータの持ち方について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
無料資料:企業を強くするデータの持ち方・使い方
顧客プロファイル管理に適したCDP
顧客プロファイルの管理には、CDPが1つの解決策となります。
CDPとは
顧客プロファイルの管理には、CDPが1つの解決策となります。
CDPとは「カスタマー データ プラットフォーム(Customer Data Platform)」の略称で、企業が持つ顧客データを「実在する個人」に紐付けて統合・管理し、顧客一人ひとりの正確な理解を可能にするプラットフォームです。
CDPには、顧客プロファイルを自動作成し管理するための機能が標準で備わっており、導入することで多くのメリットを得られます。CDPの詳細や各種マーケティングツールとの違いなどについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:CDPとは?機能や部門・業界別の活用例、今後の動向などをまとめて解説
CDPによる顧客プロファイル管理
データ収集による顧客プロファイルデータの充実
CDPは複数のマーケティングツールや社内システムなど、さまざまな外部システムからデータ収集を行います。オンライン・オフラインを問わずあらゆるデータを取得することができるため、より充実した顧客プロファイルを作成できます。
匿名状態の顧客プロファイル作成と統合
CDPでは個人を特定できない匿名状態の顧客プロファイルを自動で生成し、データを蓄積・管理できます。会員登録などで顧客化した匿名顧客のIDが複数存在する場合でも、同一顧客であることを判断して統合することが可能です。これによって優良顧客が匿名顧客だった時点での行動を分析し、ほかの匿名顧客への施策立案などに役立てることができます。
データ統合によるデータの信頼性
顧客データをどれだけ多く収集できていても、同一顧客のデータが複数存在するなどの問題があると顧客プロファイルとして活用することができません。CDPには名寄せ、クレンジングといったデータ統合機能があり、顧客一人ひとりの情報を正しく整理することができます。
セキュリティ面での信頼性
顧客プロファイルには個人情報も含まれるため、データの安全性が求められます。CDPは個人情報を取り扱うことを前提に設計されているため、標準的にセキュリティ対策が設けられています。また、データによってアクセスできる人を制限するなど、権限管理機能を備えており、顧客データを安全に扱うことができます。
関連:顧客データ活用とプライバシー問題の両立。顧客に信頼されるデータの扱い方
ツール連携による施策への活用
顧客プロファイルはただあるだけでは意味がありません。BIツールを用いた顧客分析や、顧客プロファイルをもとに作成したセグメント情報を使った外部マーケティングツールでの施策実行など、マーケティング活動に顧客プロファイルの情報を用いることで価値が生まれます。
CDPそのものは顧客プロファイルのデータを収集・統合・管理する機能が中心となっているツールですが、ほかのツールとの連携機能があるため、必要なデータをスムーズに受け渡し、施策実行に繋げることができます。
CDPと連携できる主なツールは以下のとおりです。
ツール名 | BI / 分析ツール | MA / メール配信 / その他施策 |
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ツールの例 |
・Tableau ・Looker Studio(旧Google Data Portal) ・Yellowfin ・Amazon QuickSight ・DOMO ・Redash など |
・Marketo ・Marketing Cloud Account Engagement(旧 Pardot) ・HubSpot ・Synergy! ・Karte ・DLPO ・LINE ・Repro ・WEBCAS email など |
CDPの機能や役割、ほかのツールとの違いなど、導入前に知っておくべき情報について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。