経営戦略の立案やマーケティング、商品開発などのさまざまなビジネスシーンでデータ活用が当たり前となってきています。データをどう活用するかが今後の企業の成長の鍵ともいえます。
データを活用していくためには、正しいデータ管理が必要です。中でも業務の基本となるマスターデータを正しく管理する環境を整える活動、MDM(マスターデータマネージメント)が注目されています。
本記事では、MDMとは何か、MDMが必要とされている背景、MDMを進めるうえでの注意点、MDMとCDPの関係について説明します。
MDMとは
MDMは、Master Data Management(マスターデータマネジメント)の略称です。その名のとおり、マスターデータを管理するための活動を指します。
マスターデータとは、日本語で「基礎データ」や「基本データ」といった意味で翻訳されます。例えば、商品情報や顧客の氏名・住所・年齢・性別など比較的変化が少なく、主に企業が構築するデータベースで共通となる基本的な情報のことです。
一方で、顧客の購入データやオンライン上での行動データ、流通で生じた処理データなど、何らかのアクションが発生した際の詳細を記録した情報を、トランザクションデータといいます。これらは一般に更新頻度が高いデータです。
多くのトランザクションデータは、マスターデータに紐づいた状態で活用されます。そのため、マスターデータが1つ間違っていると大量のトランザクションデータに影響を及ぼし、正しいデータ活用の障壁となります。
MDMは、マスターデータを正しいデータとして活用するために必要な活動です。
MDMの例
MDMは、全社的に共通のルールを設定し、統一されたフォーマットに沿ってマスターデータを整備・管理し、さまざまな業務システムから参照できるように維持・管理をするための人やプロセス全体が含まれます。
本記事では、MDM=MDMシステムではなく、あくまで活動全体を指す言葉であり、システムは活動を支える手段の1つとして説明します。
統一フォーマットに沿ってデータを整備するとはどういうことなのか、例を用いて説明します。
例えば、複数のブランドを展開している企業において、それぞれのブランドで会員サイトを持っていると仮定し、「性別」というカラムに焦点をあてて説明します。
- ブランドAの場合
- 顧客データ登録フォームでは性別の選択肢は「男・女・無回答」と3つある
- データベースでは、「男」と文字列で管理されている
- カラム名は「gender」
- ブランドBの場合
- 顧客データ登録フォームでは、性別の選択肢は「男・女」と2つある
- データベースでは、「1」と数字で管理されている
- カラム名は「sex」
- ブランドCの場合
- 顧客データ登録フォームでは、「男・女・答えたくない」と3つある
- データベースでは、「2」と数字で管理されている
- カラム名は「sex」
上記は「性別=男性」と同じ意味を持つデータが、ブランドごとに別のフォーマットで管理されている状態です。この状態を解消するために、共通のルールを設けます。
今回の場合であれば、以下のような共通のルールが適切です。
- フォーマットの性別の選択肢は「男・女・答えたくない」の3つとする
- データベース内の性別のカラム名は「gender」とする
- カラム内のデータの持ち方は、「男=1」「女=2」「答えたくない=3」とする
共通のルールが決まったら、既存のデータの修正やフォーマットに沿ったデータが入ってくるようフォームなどの改修を行います。
こうすることで、genderというカラムに入っている「1」という情報は「男性」を指し、どのシステムでも統一された状態に整えることができます。この一連の取り組みを、MDMと言います。
MDMが必要とされる背景
データの価値の高まり
MDMが必要とされている背景の1つに、データの価値の高まりが挙げられます。
インターネットの普及拡大により、企業はデータから価値を得るようになりました。顧客のデータから顧客にあったタイミングやチャネルで情報発信を行うことで、競合との差別化を図り売上の向上に務めたり、データをもとに市場を分析し今後の経営戦略を立てていくなど、事業を行ううえでデータは欠かせないものとなっています。
ここで言うデータの価値というのは、ただデータを多く集めることではなく、そこからデータを活用して生まれたアウトプットに存在します。
誤ったデータを利用すれば、誤ったアウトプットが生まれてしまいます。価値の高いアウトプットを生み出すためには、まずはデータを正しく蓄積・管理・提供できる状態を作る必要があります。その中でも、業務の基本データであるマスターデータが正しい状態で利用できる環境を作るために、MDMの取り組みが必要となっています。
データの種類・管理するシステムの多様化
デジタルの発展によりデータの種類も管理するシステムが多様化したことも、MDMの必要性が高まった背景の1つです。
一昔前であれば、1つの業務システムにて同じデータベースを参照することが多く、マスターデータが複数存在していても、それらの管理における問題自体が起こりづらい状態でした。
しかし、現在では利用するツール・システムが増えたことで、利用目的が異なるツール・システムのそれぞれが独自のデータベースを持ち、独自のルールやフォーマットでデータを管理しているような状態である「データのサイロ化」が発生しています。これには大きな問題がはらんでいます。
「MDMとは」で使用した例をもとに説明すると、ブランドBでは男を「1」女を「2」と管理し、ブランドCでは男を「2」女を「1」と管理している時、システムごとで活用する場合には問題ないですが、ブランドをまたいで顧客データを利用する際に、対象の顧客が持つカラムに入っている「1」の意味が揺らぎ、正しい性別が分からなくなってしまいます。
利用のたびに修正をするには工数がかかり、誤った状態のまま利用すれば誤ったアウトプットとなります。また、同一人物がデータ上では異なる人物として扱われてしまうケースもあります。このままMDMを行わずにデータを活用した場合、顧客に対して不要な情報を送ってしまったり、不必要に何度も同じコミュニケーションを取ってしまったりなど、顧客からの信頼を損なう恐れがあります。
このような状態を避けるためにも、MDMの取り組みが必要となっています。
データのサイロ化についてより詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
関連:データのサイロ化とは?2つの原因と解決策、サイロ化を解消するツールを紹介
個人情報保護への意識の高まり
個人情報保護への意識の高まりも、背景の1つにあります。
昨今、データは企業のものではなく提供者のものであるという本来の考えがより重要視され、法律の改正なども進められています。そんな中、個人情報の利用許諾の管理についても、MDMの取り組みの一貫として行うべきケースも多いかと思います。
自社で個人情報の利用許諾の管理方法が統一されていない・そもそも管理されていない状態でデータ活用しようとした場合、許諾の状況を確認する手間が発生したり、そもそも許諾を得ていない・範囲が異なる顧客のデータを利用してしまうリスクがあります。これは個人情報保護法に抵触する可能性があります。
情報提供者との信頼関係を崩さないためにも、MDMの取り組みが必要となっています。個人情報に関する規制やデータ活用の際に気を付けるべきポイントについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。
関連:顧客データ活用とプライバシー問題の両立。顧客に信頼されるデータの扱い方
MDMシステム
ここからは、MDMをスムーズに進めるために有効な手段であるMDMシステムについて紹介していきます。
MDMシステムは、マスターデータを全社的に決まったフォーマットに統一し、各システムで参照できる状態で管理できる環境を作るために用いられます。
MDMシステムを利用したマスターデータの整備方法には種類があり、実現したい目的やスコープ、現状のシステムの状態に合わせて適切なものを検討する必要があります。本記事では、3つのマスターデータの整備方式を紹介します。
- 名寄せ型
- ハブ型
- 集中管理型
名寄せ型
名寄せ型は、各システムで登録・更新されたマスターデータをMDMシステム上に収集し、整備・統合を行い、DWHやCDPに配信する方法です。
利用中の各システムを改修せずに、マスターデータの整備ができます。しかし、名寄せ型はマスターデータを各システムに戻すことができず、戻す際には都度、加工を行うかシステムごとのフォーマットに変換してデータを渡す仕組みの開発が必要となります。
根本的なデータのフォーマットやルールの標準化を行わず、分析のみを目的としDWHやCDPに投入する前のマスターデータを整備したい場合におすすめの手法です。
関連:データクレンジングと名寄せとは?正確な顧客データ管理のやり方と効果的なツール
ハブ型
ハブ型は、各システムで登録・更新されたマスターデータを、MDMシステム上で整備・統合を行い各システムに戻す形で管理する手法です。
各システムとMDMシステムの双方で、データの登録・更新ができるというメリットがあります。しかし、複数のシステムで属性の更新が可能なため、データのボリュームが大きい場合には統制を図ったり高い品質を維持し続けたりすることが難しいケースが多いです。
MDMシステムと各システムの双方で、マスターデータの登録・更新を行いたい場合におすすめの手法です。
集中管理型
集中管理型は、MDMシステム上でマスターデータを登録・更新し、MDMシステムから各システムに配信する手法です。
根本的なデータのフォーマットやルールの標準化を実現でき、強い統制を図ることができるため高い品質のデータを管理することができます。しかし、構築の難易度が高く、既存の運用や体制の大きな見直しが必要になるなどビジネスへの干渉も大きいです。
共通マスターデータを一元管理し、各システムに配信したい場合におすすめの手法です。
MDMの難しさ
MDMは重要な活動ですが、手軽に行えるものではありません。管理対象の見直しや全社のシステムの洗い出し、統一ルールの検討、統一フォーマット適用のためのシステムやフォームの改修・開発・再構築などが必要になります。
これらを全て、各工程で満たすべき要件やゴール、作業を文書によって定義し、成果物に対するレビューをしっかり行うウォーターフォール型のプロジェクトとして進める必要があり、対象となるツール・システムが多ければ多いほど長い期間が必要となります。プロジェクトによっては、数年単位となるケースも少なくありません。また、システムの改修や構築、それに伴う人手の補充などで多くの費用がかかってしまいます。これが、MDMの最大のデメリットです。
しかし、MDMの完了を待ち、統合されていないバラバラのデータを利用し続けることは、データ活用に多くの企業が取り組む昨今において、相対的に競争力の低下に繋がります。
そのような事態を避けるためにも、全社のデータはMDMで進めながら、目的を絞り限定的な範囲でデータを正しく活用できる環境を作り、継続的な改善を進めていきましょう。
弊社EVERRISEでは、デジタルマーケティング領域における300件以上の開発実績で培ったノウハウを活かし、データ統合アセスメントサービスを提供しています。スムーズにデータを統合し、活用できる状態まで構築できるよう、データの整理や品質評価、プロジェクト計画の作成までサポートが可能です。
データ統合アセスメントサービスについて、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
無料資料:データ統合アセスメントサービスご紹介資料
マーケティングにおける顧客データの統合ならCDP
ここからは、MDMを進めつつ限定的な範囲でのデータ活用ができる環境を作るための手法として、マーケティングにおける顧客データの活用にフォーカスして紹介します。ここで言う顧客データには、顧客マスターに加え、顧客の行動を示すトランザクションデータも含みます。
各マーケティングシステムで管理されているデータを取り出して、業務に合わせて統合できるデータ基盤は用途によってさまざま存在します。分析だけを目的とするのであればDWH、広告を最適化するのであればDMPなどがあります。その中でも顧客一人ひとりの理解を目的とするのであれば、CDPの利用をおすすめしています。
CDPとは「カスタマー データ プラットフォーム:Customer Data Platform」の略称で、顧客一人ひとりの理解を目的とし、企業の顧客に関するデータを収集・統合し、また各コミュニケーションツールやBIツールに連携することができる顧客データ基盤です。
CDPについて、詳しくは下記の記事をご覧ください。CDPの概要やほかのマーケティングツールとの違い、部門・業界別のCDP活用例について紹介しています。
関連:CDPとは?機能や部門・業界別の活用例、今後の動向などをまとめて解説
CDPの活用例
CDPを利用してデータを顧客別に統合することで、顧客が何を求めているのか・興味関心・最近の購入状況などを個人プロファイルにして、自社の「本当の顧客像」を可視化し、顧客に対して適切なコミュニケーション施策を実施する際などに役立ちます。
そのため、マーケティング活動や営業活動で利用されるケースが多いです。
例えば、実店舗とECサイトを持つ企業であれば、実店舗で管理している顧客データとECサイトで管理している顧客データを収集し、統合することで一人の顧客として紐付けることができます。
そして、そのデータをもとにセグメントを切ってメールやプッシュ通知などのコミュニケーションツールに連携することで、オンラインとオフラインの一連の顧客の行動を加味したコミュニケーション改善を行うことできます。
MDMとCDP
MDMの統一とCDPで行う統合の違い
MDMで行う統一とは、スコープ次第ではありますが、データを管理するルールやフォーマットを見直し、ルールやフォーマットに沿ったデータのみが管理できるよう既存のデータは修正し、今後は正しいデータだけが入ってくるようにデータの入り口である入力フォームなどの受付方法を含めてシステムすべてを修正することが中心です。
一方で、CDPは、既存の業務において利用しているすべてのデータのフォーマットやルールの標準化を目指すものではなく、それらのデータを収集・統合し、BIツールやコミュニケーションツールに配信し、分析や施策の実施を目的として用いられます。
CDPを利用する場合において、MDMが実施されていない場合は、少なくとも名寄せ型のMDMのような形でデータの整備を行う必要があります。
MDMとCDP導入は並行して進めていく
マーケティング施策の実施およびBIによる可視化に限定して、顧客データ活用を行いたいという場合は、CDPである程度はまかなうことができるため、顧客データに関するMDMの優先度を下げても良いかもしれません。
しかし、あくまで優先度の話であり、マーケティングにおいて重要な顧客のマスターデータも、MDMにて統制の取れた形で管理するべきです。
MDMにて顧客のマスターデータのルールやフォーマットを正しい形で統一することで、そもそも重複したデータが存在しない・フォーマットの異なるデータが存在しないためCDPへ投入する前の加工を行う必要がなくなります。
そして、最終的にはCDP自体もMDMの対象として含める必要があります。MDMのプロジェクトが完了次第、CDP側のデータソースもほかのフォーマットに合わせて改修を行います。
これにより、常にフォーマットの揃ったデータをCDPでも各システムでも保有できる状態になります。また、重複データが混ざることもなく効率よくデータ活用を行うことができます。
マーケティングにおいては、最終形としては上図のように、MDMシステムでマスターデータ管理を行い、そのマスターデータをCDPで利用できるようにすることが理想です。
企業としての理想的なデータの持ち方・使い方について、詳しくは下記の無料資料をご覧ください。
無料資料:企業を強くするデータの持ち方・使い方