私たちEVERRISEは、20年にわたりアドテク領域のシステム開発を通じて、数多くの広告代理店さまと伴走してまいりました。配信基盤、計測、データ連携、レポーティングなど、広告ビジネスを裏側から技術で支える「黒子」として、日々さまざまなご相談をいただいています。
そんな中、最近少しずつ、代理店さまからいただくご相談のニュアンスが変わってきたように感じています。
これまでは「こういう仕様の連携システムを作りたい」といった具体的なご依頼が中心でした。しかし最近では、「生成AIを絡めた新しいシステムを作れないか」「より広告効果を底上げできるような仕組みを作りたい」といった、少し抽象度の高いご相談が増えてきました。
広告ビジネスにおいて、新しいテクノロジーへの期待がかつてないほど高まっているのを感じます。ただ、「AIを使えば何かすごいことができるはず」「システムを入れれば効果が上がるはず」という期待を、実際にクライアントに喜ばれる具体的な「事業の強み」へと落とし込むのは、想像以上にハードルの高い作業です。
本記事では、いま多くの代理店さまが直面されている環境の変化と、抽象的なアイデアを具体的な「自社の仕組み」へと変えていくためのヒントについて、私たちが現場で見てきた視点から少しだけ共有させてください。
AIの進化と、皆さまが抱える「言語化しづらいお悩み」
入札調整、配信先の最適化、クリエイティブのABテストといった日々の運用業務。これらはすでにAIによる自動化が驚くほどのスピードで進んでおり、現場の皆さまもその変化を肌で感じていらっしゃるかと思います。
だからこそ「自社でも生成AIなどの最新技術を使ったシステムを」というお声が増えているのですが、多くの代理店さまとお話しする中で、こんな本音やお悩みをよく耳にします。
「AIを活用した企画は上がるものの、どのようにしても他社と同じような内容になり、差別化しづらい」
「優秀なメンバーの知見をシステム化したいが、属人的すぎて『再現性のある仕組み』にならない」
「結果として毎回ゼロベースのコンペになり、現場が疲弊してしまう」
最新のテクノロジーを使うこと自体は、もはやゴールではありません。「テクノロジーをどのように組み込み、自社ならではの再現性のある強み(資産)を作っていくか」という点に、本当の難しさがあるように感じています。
だからこそ私たちは、単発のバズワードに乗るだけでなく、「一度作れば継続してクライアントの役に立てる『仕組み=資産』」を作るお手伝いがしたいと考えています。
なぜ「資産」なのか —— 代理店ビジネスを分解して見えてくること
「なぜ仕組み(資産)づくりが、これからの差別化の鍵になるのか」。少し回り道に見えるかもしれませんが、ここで代理店ビジネスがどのような機能の積み重ねで成り立っているかを一度分解してみたいと思います。そうすると、AI時代にどこで戦うべきかが、驚くほどクリアに浮かび上がってくるからです。
代理店が広告主とメディアの間で価値を生んできた機能は、おおよそ次のように整理できます。それぞれが「AIによってコモディティ化してしまうのか」「それとも差別化の堀として残るのか」を、私たちが現場で見てきた肌感覚も含めて評価したものが下の表です。
| 機能レイヤー | 価値の源泉 | AIによる代替性 | 堀としての強さ |
|---|---|---|---|
| 在庫アクセス(仕入れ) | 希少資源の占有 | 代替されない(在庫生成不可) | ◎ 強力 |
| メディアプランニング | 情報の非対称性 | ほぼ代替される | △ 弱い |
| クリエイティブ制作 | 表現スキル | 大幅に代替される | △ 弱い |
| 運用・最適化 | オペレーション量 | 代替される | △ 弱い |
| 計測・分析 | データ保有+分析力 | 分析は代替、データ保有残る | ○ データ次第 |
| 戦略・コンサルティング | 意思決定の質 | 部分的に残る | ○ 競合は多い |
| 与信・立替・取引代行 | 資本力・信用 | 代替されない(金融機能) | ○ 地味だが堅い |
この表が示しているのは、とてもシンプルな事実です。 差別化の堀になる要素には、共通の性質があるということです。
堀になりやすいのは、在庫アクセス・データ保有・与信といった「AIがいくら賢くても生成・複製できない資源」 に立脚した機能です。在庫は物理的・契約的な占有、データは時間をかけた独自蓄積、与信は資本と信用——いずれも情報やスキルではなく『資産・資源・関係』に根ざしているため、AIで埋まりません。
逆に堀になりにくいのは、プランニング・クリエイティブ・運用といった、「情報の非対称性」と「人手によるオペレーション」を価値の源としてきた機能です。AIはまさにこの二つを直撃するため、ここで稼ぐモデルは利幅を失っていきます。冒頭でご紹介した「他社と同じ企画になってしまう」「毎回ゼロベースのコンペで疲弊する」というお悩みは、まさにこのコモディティ化が現場で起きている証拠だと言えます。
ただ、ここに大事な見落としがひとつあります。 それは、コモディティ化する機能であっても、それを属人的なオペレーションではなく 「再現性のあるシステム」として実装し直すと、新たな堀に転化し得るという点です。運用やプランニングのノウハウを、AIを内蔵したプロダクト/仕組みとして外部化し、『人に依存せず、誰がやっても同じ成果が出る装置』に変える——機能そのものではなく『機能の提供形態』を変えることで、持たざる代理店でも新しく堀を築けるのです。
つまり、これからの代理店の差別化は、突き詰めると次の二系統に集約されます。
- AIの外側にある資源(在庫・データ・与信)を占有する
- コモディティ化する機能を、再現性のあるシステムに転化する
そして、ここからご紹介する「3つの資産」は、まさにこの二系統を代理店さまの現場に落とし込んだ、具体的な打ち手なのです。それぞれが上の分解図のどこを押さえに行く一手なのか——その視点で読んでいただくと、より腹落ちしやすいかと思います。
現場の裏側で見えてきた、次への一歩となる「3つの資産」
では、「効果を上げる仕組み」や「新しい技術を活かした仕組み」とは具体的にどのようなものか。これまでのお手伝いの中で、代理店さまが独自の強みを築かれたケースには、大きく3つの方向性があるように感じています。
1. クライアントの1st Party Dataを活かす基盤
「より広告効果を上げる」ためのもっとも確実なアプローチの1つです。Cookie規制が進む中、クライアント自身が持つデータの価値が高まっています。
ただ、「データは集めたけれど手作業の連携が多くて大変」「効果検証に落とし込めていない」という現場の苦労も伺います。AIによる分析や最適化も、まずはこの「綺麗なデータが自動で連携される基盤」があってこそ活きてきます。私たちは、この土台作りから皆さまの負担を減らすお手伝いができます。
(——これは先ほどの分解で言えば、AIに代替されにくい 「データ保有」という資源を、代理店さまが握るための一手です。)
具体的には、少し古い外部の事例にはなりますが、以下の記事が非常に参考になります。
広告パフォーマンスを最大化、「P-MAX キャンペーン」活用の 4 事例 —— MonotaRO、freee、ガリバー、イトーヨーカドー ※特にガリバーさまの例は、1st Party Dataを活用した非常に洗練された仕組みを構築されており、目指すべきデータ連携の1つの理想形と言えます。
2. 独自の媒体・パッケージづくり
一般的なプラットフォーム広告の価格競争から抜け出すため、独自のメニューや提携枠を持つという方向性です。
例えば近年、タクシー広告、トラック広告、個室トイレ内広告、ゴルフ場のカート広告、エレベーター広告、エキナカ広告、ECモール内広告、ヘリコプター広告など、ユニークで新しい媒体が次々と登場しています。
このような特定の空間や文脈を切り取ったパッケージを自前で作るとなると、申じ込み・在庫管理・効果計測・精算といった「裏側の業務」が急増してしまいます。このシステム面でのハードルを私たちが引き受けることで、皆さまには「どんなパッケージが売れるか」というビジネスの企画に専念していただければと考えています。
(——これは分解図で「◎ 強力」とされた 「在庫アクセス=希少資源の占有」を、自前でつくりに行く一手。AIにも生成できない物理的な枠を握る、もっとも堅い堀です。)
3. 新しい広告メニューの開拓(効果の可視化と推定)
「生成AIや最新技術を絡めたい」というご要望に対して、私たちがもっともお力になれるかもしれない領域です。世の中には「効果はありそうだけど、数値化しづらいから提案しにくい」という新興メディア枠やオフライン施策がたくさんあります。
具体的には、運用型の音声広告、応援広告、さらにはポスティング広告といった、既存の計測では難しいものを「どのように売れる商品化するか?」という検討軸になります。
もしここに、「データとAIを活用して効果を推測・計測できるロジック」を組み込むことができれば、これらは胸を張ってクライアントに提案できる「新しい商品」に生まれ変わります。
(——これは二系統目、「コモディティ機能を再現性のあるシステムに転化する」典型例です。計測しにくい施策に独自の計測ロジックを実装することで、誰がやっても同じ品質で提案できる『装置』に変えてしまう。持たざる代理店でも、開発力次第で新しく築ける堀です。)
抽象的なアイデアを「形」にするパートナーとして
生成AIを活用したい、もっと効果の上がる仕組みを作りたい。このような素晴らしい熱意や構想を思い描かれていても、なかなか実現に至らないケースをたくさん見てきました。
理由はシンプルで、「抽象的なアイデアと、実際のシステム実装の間には、想像以上に多くのステップ(翻訳作業)がある」からです。
このステップを一緒に伴走しながら乗り越えるのが、私たちEVERRISEの役割です。
「生成AIを使って、こういう業務を自動化できないか?」
「この新興枠の効果を、どのようにロジカルにクライアントにレポートするか?」
私たちが長年培ってきたシステム開発の知見と、アドテクならではのデータ処理のノウハウを掛け合わせることで、皆さまの頭の中にある「フワッとしたアイデア」を「売れる仕組み」へと形にするお手伝いができます。
環境の変化が激しい時代ですが、だからこそ新しい仕組みを作るチャンスでもあります。 「生成AIを使って何かできないか」「社内でこんな構想があるんだけど」といった、まだ抽象的な段階でまったく問題ありません。壁打ち相手として、ぜひお気軽にお声がけいただければ嬉しいです。